サリー・イエーツ司法長官代行の解任劇

2017/1/30、トランプ大統領が司法省(DOJ)のサリー・イエーツ(Sally Q. Yates)司法長官代行を解任したと報じられました。

https://www.nytimes.com/2017/01/30/us/politics/trump-immigration-ban-memo.html

トランプ大統領による「イスラム圏7カ国出身者らの一時入国禁止」を命じた大統領令を支持しないように、イエーツ長官代行が司法省内で通知したことに対する厳しい処分です。

イエーツ氏はもともとオバマ政権でDOJの副長官に任命され、リンチ前司法長官を支えていた人物で、FCPA摘発にあたって企業の執行役員・幹部等の個人責任にフォーカスをあてる新しい捜査指針「イエーツ・メモ」を発表したことで知られていました。トランプ政権の発足に伴ってリンチ長官が退任した後、セッションズ上院議員が新しい司法長官として議会承認を得るまでの間、司法長官代行(acting Attorney General)の地位にあった訳です。

トランプ政権発足後に繰り出され物議をかもしている大統領令に対して、「遂に現役の政府高官が公然と反旗を翻し、それに対して直ちに報復措置が講ぜられたこと」に衝撃が走っていますが、ある意味では当たり前の推移です。

2016年の大統領選挙で、当初優位に立っていたクリントン候補が敗北したのは、私設メールサーバー(clintonemail.com)を使った私用メール問題に対するFBIの捜査が二転三転し、社会の批判を浴びたことが主因の一つです。FBIによる捜査にストップをかけたと報じられているのがDOJのリンチ長官(当時)。コミー長官率いるFBIは泣く泣く捜査を終結させましたが、別の捜査(アンソニー・ウィーナー事件)でクリントン側近のフーマ・アベディン氏のPCから新証拠が見つかったとして、捜査を再開させました。この捜査再開の衝撃が、一時は10ポイント近く支持率で負けていたトランプ候補を復活させたのでした。FBIによる再捜査はわずか8日で終結(再終結)させられましたが、一連の経緯が(少なくとも、結果として)トランプ候補を後押しすることになったのは否定できないところでしょう。ちなみにFBIのコミー長官は、政権交替後、早々と「留任」が決まったと報じられています。

イエーツ長官代行がDOJを去るというのは既定路線の話であり、もともとセッションズ新長官が承認されるまでの僅かの期間、長官代行の職に就いていたに過ぎません。驚きだったのは、大統領令とそれに対する各地での抗議活動の盛り上がりの機を逃さず、サリー・イエーツ氏が「大統領に逆らって解任される」という「劇」を見事に演じ切ったことだと言ったら、言い過ぎでしょうか。

 

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トランスペアレンシー・インターナショナルがCPI2016を発表

2017/1/25、トランスペアレンシー・インターナショナルが最新版の「汚職認識指数2016」(CPI2016)を公表しました。 http://www.transparency.org/news/feature/corruption_perceptions_index_2016

トランスペアレンシー・インターナショナル(Transparency International: TI)とは、世界銀行の局長だったピーター・アイゲン氏が創立した、腐敗防止に取り組む世界で最も権威のある国際NGOです(本部ベルリン)。

そのトランスペアレンシー・インターナショナルが毎年発表しているのがCorruption Perceptions Index、通称CPI。これは、各種の調査報告・統計資料等に基づいて、世界各国の「公的部門」(public sector)の腐敗度合いを点数化したランキングで、大手企業等によるリスクマネジメントの基礎資料として採用される事が多いデータです。

2016年版CPI(対象国:176カ国)で1位になったのは、デンマークとニュージーランド。最下位はソマリアでした(10年連続)。アジア太平洋地域に絞ってみますと、ランキングは次の通りです。

CPI算定の基礎データとなるのは世界銀行等による過去2年間の調査結果なので、個別的事案とCPI算定との間にはライムラグがあります。したがって、順位(点数)の変動と個別案件の因果関係を推定することは難しいのですが、概ね次のようなことがいえるかもしれません。

まず、日本が18位から20位に後退したのは、国交省や厚労省といった中央省庁レベルでの贈収賄事件摘発があった他、中央・地方レベルでの政治家に関わる利益供与案件が摘発されたことが影響しているものと思われます(ただし、日本全体の中長期的トレンドを見ると贈収賄の立件数は減少傾向にあることは事実です。例えば過去20年でいうと「贈賄罪の送検人員」は平成10年(1998年)の273人をピークに、平成27年(2015年)は42人まで激減しています)。いずれにせよ短期的には、日本の「腐敗度」は上がったと評価されている訳です。

他方で、例えばミャンマーは昨年の147位(22点)から136位(28点)に上昇していますが、これはアウン・サン・スー・チー(Aung San Suu Kyi)外相兼大統領府相兼国家顧問が積極的に腐敗防止に取り組んでいることが評価されたのでしょう。

このように、デンマークをはじめとするトップ10とソマリアや北朝鮮が常連のワースト10の顔ぶれはあまり大きくは変動しないのですが、その間の「中間層」は細かく順位が変わっていることが分かります。

ところで上位層の特徴の一つが「公益通報保護」制度の充実です。トランスペアレンシー・インターナショナル日本支部(TI-J)の若林亜紀理事長が指摘しているように、「1位のニュージーランド、10位のイギリス、13位のオーストラリアなど英連邦の国々は公益通報保護などの腐敗防止法が整っており順位が高い」のです。日本でも、公益通報者保護制度の民間事業者ガイドライン(消費者庁)が改訂され、法改正の検討が進んでいますが、公益通報保護を「腐敗防止のグローバルな潮流」の中に位置付けて議論を深めることが必要でしょう。

http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/198188

また、武力紛争との関連を視野に入れることも重要だと思われます。若林理事長によると「北朝鮮、アンゴラ、スーダン、南スーダン、ソマリア、アフガニスタンなど腐敗認識指数の低い国ほど武力紛争が絶えないという相関」があるとのこと。この指摘は、極めて重要です。なぜなら地政学的リスク、カントリーリスクの分析は腐敗防止対策に欠かせないからです。

http://www.ti-j.org/CPI2016pressrelease.pdf

いずれにせよ、綱紀粛正の嵐が吹き荒れた中国(40点で79位)よりも現時点でランキングが低い国家(インドネシア、フィリピン、タイ、ベトナム、ミャンマー、カンボジア等)でのビジネスについては、腐敗関係のリスクに特段の注意を払うことが必要不可欠だと考えられます。

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FCPA摘発と共和党/民主党

FCPAの摘発動向についてですが、「民主党政権は積極的だったが、共和党政権は消極的になるのでは!?」という意見も頂きましたので、追加でコメントします。

下のグラフを見てもらうと一目瞭然ですが、政権が民主党(青)か共和党(赤)かという問題とFCPAの摘発動向は、直接的な関係はありません(なお、グラフの件数はDOJの執行分のみで、会計条項違反のみの案件が含まれるSEC執行分は含んでおりません)。

アメリカの司法省(DOJ)や証券取引委員会(SEC)は、アメリカ国内で「会合」を開いたり、米国銀行の口座を経由して「送金」したり、アメリカ人やアメリカ企業(ニューヨーク証券取引所等で上場している日本企業含む)と「共謀」をしたりしているといった事由をとらえてアメリカ連邦法の管轄権を主張し、FCPAの「域外適用」を押し進めてきましたが、摘発が激化したのは2007年頃からです。

今に至るその流れの先陣を切ったのは、ブッシュ(息子)政権(共和党)で司法長官に任命されたマイケル・ミュケイジー氏でした。続くオバマ政権(民主党)で任命されたエリック・ホルダー氏(史上初の黒人司法長官)もこの路線を受け継ぎ、2012年のガイドライン作成・公表の前後にいったん摘発が沈静化した時期を例外として、FCPAの域外適用による摘発件数は高止まりしたままです。共和党から民主党への政権移行の影響は伺えません。ここ1〜2年は、リンチ司法長官(黒人女性として初めて司法長官に任命)がFCAやRICOを使った「民間同士の利益供与」案件の摘発を積極的に進めたので、FCPAそのものを適用する案件の件数は若干減っていますが、ビジネス贈収賄の摘発状況は消極化している訳ではありません。

逆に、ミュケイジー以前の時代は、FCPAの摘発件数は低いままに推移していました。特にレーガン政権(共和党)は、反共の旗を掲げていればある程度の腐敗は黙認するという政策で、いわゆる開発独裁政権(developmental dictatorship)のやりたい放題を見過ごしていたとも言えますので(ただし中南米のドラッグ関係は別)、外国公務員(外国政府高官)に対する賄賂は黙認される傾向があったと言えます。

いずれにせよ、FCPAの摘発動向と、政権が民主党か共和党かは、直接の関係はないということが分かります。トランプが大統領に就任した今後、FCPAの摘発がどうなるかは、トランプ大統領自身の考えと、トランプ政権としての通商政策の具体策、そして(摘発鈍化を促す米系企業による)ロビー活動の成否による、というのが本当のところでしょう。

ちなみに、2007年頃に始まり現在まで続くこの潮流がなぜ始まったのかは、別の大きな問題です。その「因果関係」を明確に摘示することは難しいのですが、一言で言うと、2001年の「9.11テロ」後、主にFATF等の金融分野で構築されていったテロ資金対策の政策が背景にあること、そして海外贈賄に関する証拠収集(電子メール・SNS、送金・入出国に関する電子記録等)が以前と比較して相当に容易化し、かつ国際捜査共助が進展してきたことが指摘できると思います。

その意味では、トランプ政権でFCPA摘発が一時的に鈍化する可能性はあるとしても、アメリカを震源地としてここ10年ほど世界のグローバル企業を震撼させてきた贈収賄の摘発動向(国際潮流)は長期的には変わらないと言えるかもしれません。

短期的に怖いのは、中国企業と並んで、日本企業が「狙い撃ち」されることです。いち早く備えを強化している企業もありますが、ぼんやりしている所も多いのが実情です。贈収賄にかかわるリスクマネジメントの再点検は喫緊の課題でしょう。

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トランプ政権とFCPA

トランプ政権の誕生によってFCPAの摘発動向はどう変化するでしょうか。11月の米国大統領選挙以来この関係の質問が相次いでいましたので、現時点での考えをまとめて、「別冊宝島」に寄稿しました。先日発売された『別冊宝島2538 政府高官とFBIが明かす トランプの野望』(宝島社)です。ジョセフ・ナイ、フランシス・フクヤマ、エドワード・スノーデン、川村晃司氏、宮家邦彦氏、大野和基氏といった豪華な顔ぶれによる記事がたいへん面白いので、是非お読みください。

トランプ政権とFCPAを考える上でのポイントは次の通りです。

  1. 新しい司法長官に指名されているのは、アラバマ州選出のジェフ・セッションズ上院議員。セッションズ氏は検事出身で、企業犯罪の摘発自体は推進していくと思われるが、司法長官に抜擢された経緯からするとFCPA摘発積極策を取らない可能性がある。 もともとセッションズ氏は、過去にKKKを肯定的に語り、人種差別主義者として批判を浴びた人物。強硬な不法移民排斥論者で大麻解禁反対論者、つまり共和党最右派の保守派。そのセッションズ氏が司法長官に選ばれたのは、大統領選でいち早くトランプ支持を表明し、選挙戦で外交政策の立案を支えた論功行賞。したがって、セッションズ氏が司法長官になった場合、まず考えられるのが、上司であるトランプ大統領の意向が最大限に反映されるという可能性。
  2. トランプ自身はFCPAの改正派。2012年5月15日、CNBCのSQUAWK NEWS LINEでトランプは、世界最大の小売業者ウォルマート社のメキシコでのFCPA違反事件について、「メキシコや中国で雇用を産み出している企業を摘発するなんて、この国は狂っている。FCPAはhorrible。改正されるべきだ。FCPAのおかげでアメリカのビジネスは大きな損失(huge disadvantage)を被っている」と発言。これはまさにブレジンスキー(カーター政権時代)を思わせる発言。
  3. 国務長官に親ロシア派のティラーソン氏が就任し、ロシアとの融和策が取られる場合、ハードルは下がる=消極化する可能性(プーチン大統領もFCPAの域外適用に批判的だから)
  4. 仮にルドルフ・ジュリアーニ元NY市長が司法長官に選ばれていれば、話は別だった。ジュリアーニ氏はFCPA摘発を推進したミュケイジー元司法長官の同志ともいうべき存在。企業犯罪・不正行為に厳しい姿勢が取られFCPA積極摘発路線が維持される可能性が高かった。
  5. なお、司法省の執行自体が急に変化する訳ではない(司法省の捜査実務を担う幹部が皆、政治任用で交替する訳ではないから)。
  6. 実務的には、2015年9月の司法省「イェーツ・メモ」を受けた、新しい捜査パイロットプログラムが稼働したばかりで、捜査実務の方針は直ちには変わらないだろう。
  7. 従来通りFCPA 摘発を継続する可能性も残っている。例えば、中国対抗策として中国企業による贈賄を摘発する等、実利的な判断からFCPAの戦略的活用が図られる可能性。米国企業保護の見地から日本企業が狙い撃ちされる危険性もある。この場合、FCPA適用の「二重基準」(ダブルスタンダード)が問題視される局面も考えられる。

こんなところです。

いずれにしても、FCPAの摘発動向を考える上で、いっそう「地政学的な視点」を取り入れることが重要になっているということだと思います。

ということで、春から5年目に突入するBERC(=日本の主要企業が参加するコンプライアンスの専門機関)の「外国公務員贈賄罪研究会」は、地政学的リスクの分析に重点を置く方向で運営していきたいと思っています。なお、同研究会に参加したい企業は、BERCに入会することが必要です。詳しくはBERCにお問い合わせください。

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中国が「国家監察委員会」を新設へ

2017/1/3の朝日新聞の記事(西村大輔記者)によると、中国が公務員の腐敗行為を取り締まる国家機関「国家監察委員会」を2018年3月に新設する方針とのことです。

http://digital.asahi.com/articles/DA3S12730505.html

習近平政権はこれまでに大々的に反腐敗政策を執行し、政法委員会を牛耳って来た周永康をはじめとする政府・軍高官を摘発してきましたが、その集大成として、共産党の中央規律検査委員会や中央巡視組とは別に、常設機関として本格的な腐敗摘発組織を新設するということのようです。

西村記者によると、国家監察委は「関係部門を統合し、政府と同格の地位を与えて権限を強化。中央規律検査委は存続するが、機能や要員は国家監察委と統合する可能性が高い」とのこと。

「政府と同格の地位」というと、日本の三権分立の構図に慣れた頭には驚きかもしれませんが、中国での政府は党の下にある機関に過ぎません。

今回の国家監察委員会の常設を、「いよいよ腐敗取締りが本格化する」と捉えるか、「これでルーティン化=日常化するので、一段落だ」と捉えるか、人によって見方は分かれるかもしれませんが、在中国日本企業にとっての影響は大でしょう。

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パナソニック、調達部門における接待を大量処分

パナソニックは2016/11/1、テレビ部品の購買/調達部門等の社員らが納入元メーカーから延べ2000回以上もの接待を受けていたとして、厳しい社内処分を下したと報じられています。

産経新聞によると、処分の対象となったのは全部で「90人余り」。中心となったのは、テレビ部品の調達部署に属する70人強です。接待を受けることを禁止する社内規定に違反したとして、「約5人が降格、30人前後が出勤停止、50人前後がけん責処分」を受けたとのことです。

今回の接待が「渉外性」のある(国境を越える)便宜供与だったかは不明ですが、国内案件だとしても(ちなみに、UKBAやベトナム改正刑法(2017年施行予定)と異なり、我が国では民間同士の利益の供与はそれ自体では違法ではありません)、調達部門は特に、契約にあたって便宜供与を受ける潜在的可能性が高く、情実による判断が会社に損害を与える可能性がある部署ですので、一罰百戒的に厳しい処分を下したものと思われます。

民民贈収賄防止に取り組んでいる日本企業は多くなりましたが、実際の処分に踏み切り、かつ自主的に公表した例はあまり聞いたことがありません。パナソニックのインテグリティを示す先例として、今後評価されることでしょう。

http://www.sankei.com/west/news/161105/wst1611050030-n1.html

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東京五輪招致問題についてのJOC調査報告書

2016/8/31、東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会に関わる「利益供与疑惑」についての調査報告書が公表されました。結論から言うと、招致活動に関わるコンサルディングの対価に賄賂性は認められず、当事者に贈賄の認識もない、したがって違法性はないというものです。

東京五輪の招致委員会ですが、2011/9/15に任意団体として設立された後、2012/4/2には特定非営利活動法人化、この招致委員会が、東京五輪招致のロビイング活動を任せたのがシンガポールにある「ブラックタイディング」(BT)です。

調査報告書によれば、一連の経緯は概ね次の通りです。

  • 2013/5下旬に、BTからパンフレットが送付されてきたことを端緒として、BTのタン氏が評価され、招致委員会は、2013/7/1に第1契約を95万ドルと締結
  • 2013/7/16,25に、IAAFに強いコネを持つパパ・ディアク氏(セネガル人。IAAFのドンの息子だけど名前はパパ)が高級時計を購入❶
  • 2013/7/29に、招致委員会は95万ドルを送金(みずほ銀行→Standard Chartered Bank)❷
  • 2013/9/7のIOC総会で「東京開催」が決定
  • 2013/10/4に、招致成功を受けて、第2契約(137.5万ドル)を締結
  • 2013/10/24 その137.5万ドルを送金(同ルート)❸
  • 2014/3/31、招致委員会は任務終了にともなって解散

というものです。

「パパによる時計購入❶が送金❷+❸よりも前だから」とか、当事者に贈賄の「故意」はなかったとか、やや「力技」ともいえるロジックで結論を導いている今回の報告書ですが、注目すべきはなんといってもBT。実は、国際的なスキャンダルとなった「ロシア・ドーピング問題」の登場人物だったのです。

2014春のユリア・ステパノワ夫妻による内部告発をきっかけに、ドイツ公共放送ARD が衝撃のドキュメンタリー番組を放送したのが2014/12/3。実は、その中で、ロシア陸上界のスター選手の一人だったリリア・ショブホワ選手が、「45万ユーロ(約5950万円)払ったが資格停止になっちゃったので、30万ユーロをバックしてもらった」と告発した際の送金口座がBTのものでした。ジャーナリストが電波少年よろしくシンガポールのBTを突撃取材すると、そこは「雑然とした雑居ビル」の一室だったというラストシーンで、ARDのドキュメンタリーは終わります。つまり、BTは、2014年末段階で世界的に有名になっていた存在でした(危機管理的には、この事実はとても重要)。

(ちなみに、このARDのドキュメンタリーは夜中にBTを訪問撮影したもので「いかにも怪しい」という印象を強烈に演出しています。しかし、BTの所在地である建物は実際には単なる集合住宅で、「オフィルビルとは思えない雑然さ」は当たり前ということがその後に判明しています。BTは「法人」ではなく「個人事業主」に過ぎないという指摘があります)

このロシア・ドーピング問題の告発を受けて、WADA(世界アンチドーピング機構)が調査報告書の第一弾を公表したのが2015/11/9、より詳細な内容に踏み込んだ第2弾は2016/1/14に公表されました。このWADA報告書第2弾の脚注に「日本人は400〜500万ドルの協賛金を払った。2020大会は東京が獲得した」という記述が載っていたことが、今回の騒動の出発点です。

2016年5月には通常国会でJOC会長が厳しく追求され、一時はどうなることかと思われた今回の「疑惑」でしたが、この報告書の公表で事態はとりあえず沈静化しそうです。とはいえ、今回の騒動がスポーツ・インテグリティや危機管理の点でいろいろな課題を残したのも事実。調査報告書は公開して多くの人に読まれるべきでしょう。

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ドーピング、五輪そして賄賂


講談社の「現代ビジネス」に、『「オペレーション・アウゲイアス」リオ五輪の水面下で進められるドーピング壊滅作戦の実態 「五輪と薬物」通史』という拙稿が掲載されました。

これは、ロシア陸上界を中心とするドーピング疑惑に対する国際捜査を材料にして、スポーツ・インテグリティについて検討した原稿の一部です。あまりにも字数が多くなってしまったので、今回はその一部ということで。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49433

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朝日新聞対UE社事件、控訴審で判決

本日(2016/6/1)、東京高裁の控訴審で、朝日新聞社対ユニバーサルエンターテインメント社(UE社)事件の判決が出ました。

これは、フィリピンのカジノビジネスに関わる外国公務員贈賄疑惑を報じた記事に関して、UE社が「名誉毀損」で朝日新聞社を訴えていた損害賠償請求事件の控訴審判決です。東京高裁(水野邦夫裁判長)は「朝日新聞は33万円を支払え。1本の記事を削除せよ」という判決を下しました。

一審の東京地裁判決(2015/12/21)は「330万円の損害賠償+4本の記事削除」だったので、「賠償額は90%減額、記事削除も75%低減」といえなくもないのですが、UE社側の請求が一部認容されているという意味では、朝日新聞社側の「勝訴」とは言えず、引き続きの「敗訴」と言うべきでしょう。特に「記事削除」を覆せなかったのは「言論機関」として痛いところかもしれません。

フリーリポートの信頼性を含めて、FCPAに関わる事実を丹念に拾い上げ名誉毀損の主張を緻密に構成したUE社側に対して、北方ジャーナル事件等を引用して悠然と「反論」した形の朝日新聞社側。昨年末の一審判決は、そうした朝日新聞社側の主張に、厳しい判断を突きつけました。今回、一審判決に続いて控訴審でも朝日新聞が「敗訴」してしまったことに、波紋が広がりそうです。

「なぜこうなってしまったのか」については、次回BERC研究会で検証したいところです。

なお、一審判決については、講談社現代ビジネスの記事もご覧下さい。

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47190

 

 

 

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パナマ文書、遂に「データ」を公開

本日(2016/5/10)、ICIJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)がパナマ文書の「データ」を公表しました。

https://offshoreleaks.icij.org

パナマ文書とは、パナマにある法律事務所「モサック・フォンセカ」から「流出した」とされている文書(2.6TB相当とのこと)で、タックスヘイブン(租税回避地)に設立された会社等のデータが「内部告発」されたとされているものです。その「データ」が一般公開され、ICIJのウェブサイトから検索出来るようになりました。

また、CSVデータもダウンロードできるようになっています。

https://offshoreleaks.icij.org/pages/database#_ga=1.94733332.922987544.1459997510

このCSVファイル(offshore_leaks_csvs)は、

  1. Addresses.csv
  2. all_edges.csv
  3. Entities.csv
  4. Intermediaries.csv
  5. Officers.csv

という5種類のファイルで提供されており、例えば法人の名称別に整理されたCSVファイル「Entities.csv」を見ると、「31万8823件」のデータが掲載されていることが分かります。

これだけの情報を「野に放った」形の今回の公表、前代未聞の試みと言えそうです。

panama

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ミャンマー新政権の贈答品受領基準、91.7%カットへ

産経新聞によると、

  • ミャンマー大統領府は5日までに、公務員の贈答品受領に関する指針を公表。
  • 2万5千チャット(約2300円)を上回る贈答品の受領は認められないと規定。
  • 一個人・組織からの贈答品受領は年10万チャットまで。
  • ゴルフ会員権や宿泊、食事の提供を受けることも禁止。
  • 3月末発足の新政権は汚職撲滅を掲げており、外相を兼務するアウン・サン・スー・チー大統領府相が厳格な姿勢を打ち出した。

とのことです。

http://www.sankei.com/world/news/160405/wor1604050019-n1.html

旧テインセイン政権では30万チャットだったこの基準、実に91.7%の大幅削減です。ちなみに、この基準はあくまでも受領する側の公務員に対する政府内部の指針であり、贈る側の企業サイドを直接の対象とするものではない事を誤解なきように。

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オリンパス、FCPA違反等事件で6.46億ドル支払をDOJと合意

 オリンパスは昨日(2016/3/2)、反キックバック法/虚偽請求取締法とFCPAに関連する調査について、DOJと合意した旨のプレスリリースを公表しました。
http://www.olympus.co.jp/jp/common/pdf/td160302.pdf
それによると、米国子会社Olympus Corporation of the Americas(OCA)による反キックバック法/虚偽請求取締法違反の嫌疑については、罰金及び制裁金として 6.12億ドル(約704億円)に利子約 1120万ドル(約13億円)、間接米国子会社Olympus Latin America, Inc.(OLA)とそのブラジル子会社Olympus Optical do Brasil, Ltda.(OBL)によるFCPA違反の嫌疑に関しては、罰金2280万ドル(約26億円)を支払い、それぞれコンプライアンス改善のための施策実施を合意したとのことです。朝日新聞の「ミスターFCPA」中井大介記者による記事は、下記のリンク先をお読みください。
http://digital.asahi.com/articles/DA3S12238156.html 

また、日経によると、「2日の株式市場ではオリンパス株は一時、前日比8%(340円)高い4420円まで買われた。和解を受けオリンパスの負担の上限にめどがたったことが好感されたようだ」とのことです。

http://www.nikkei.com/paper/article/?ng=DGKKASDZ02HYY_S6A300C1TI1000

オリンパスにとっては、今後のコンプライアンス改善の「実効性確保」が課題となりそうです。

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カジノ・コンプライアンス

講談社の「現代ビジネス」にコラムを寄稿しました。12/21の「朝日対UE社の名誉毀損裁判一審判決」を題材にして「カジノビジネスのコンプライアンス」を考えるといった趣旨のものです。

今回は、現地取材したマニラやラスベガス等の情報を基にして、カジノにまつわるビジネス・リスクについて書いてみました。

そういえば3年近く前、BERCの外国公務員贈賄罪研究会の記念すべき第1回で、熱く議論したのがフリーリポートにおける「prima facie」の解釈。その他、配信サービスの抗弁とか、新聞社における「特別報道部」なるものの意義とか、いろいろな問題を考えさせられる今回の判決、次回のBERC研究会で集中的に議論したいと思っております。

朝日新聞「驚きの敗訴」で見えたカジノビジネスの「光と闇」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47190

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UE社、名誉毀損訴訟で朝日新聞に勝訴

昨日(12/21)、ユニバーサルエンターテインメント社(UE社)が名誉毀損で朝日新聞を訴えていた民事訴訟で、東京地裁(松本利幸裁判長)は、朝日側に330万円の支払いとウェブサイト上の記事削除を命じる判決を言い渡しました。読売新聞によると、

  • 松本利幸裁判長は、一部記事の内容について、「真実ではなく、真実相当性も認められない」と述べた。
  • 問題となったのは、2012年12月~13年2月の計5本の記事。UE社がカジノ免許の許認可権を持つフィリピン政府高官らに接待を繰り返し、UE社の子会社が同国のカジノ規制当局側に4000万ドル(約37億円)を送金したなどと報じた。
  • 判決は、接待や送金は認める一方、接待に有利な取り計らいを受ける目的があったとはいえず、一部の送金はUE社の意思決定によるものではなかったなどとして、5本中4本の記事について名誉毀損を認めた。

とのことです。
http://www.yomiuri.co.jp/national/20151221-OYT1T50122.html

朝日新聞、まさかの敗訴です。いわゆる「フリーリポート」に端を発する一連の報道が名誉毀損にあたるかについて、注目すべき判決が出ました。

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TPP協定における「腐敗行為の防止」

昨日(2015年10月5日)、米国アトランタで開催された閣僚会合で「TPP協定」が遂に大筋の合意に至りました。このTPP協定には「透明性と腐敗行為の防止」というテーマが織り込まれています(26章)。
つまり我が国はTPP締約国として「自国の腐敗行為の防止に関する法令を効果的に実施」することを約束したことになります。

以下、該当箇所を参考までに引用します(出典:内閣府「環太平洋パートナーシップ協定の概要(暫定版)(仮訳)」。

26. 透明性及び腐敗行為の防止
TPP協定の透明性及び腐敗行為の防止章は、良い統治の強化並びに贈収賄及び腐敗行為が経済に与え得る影響への対処という全TPP締約国によって共有された目標を促進することを目的としている。透明性及び腐敗行為の防止章に基づき、TPP締約国は、TPP協定の対象となる事項に関連する自国の法令及び行政上の決定を公に入手可能なものとし、可能な限り、規則を通知及び 意見提出の対象とすることを確保する必要がある。TPP締約国は、行政上の手続に関するTPPの利害関係者の一定の適正な手続の権利(中立的な司法裁 判所若しくは行政裁判所又は司法上若しくは行政上の手続を通じた迅速な審 査を含む。)を確保することに合意する。また、締約国は、公務員による不当な利益の申し出又は要求並びに国際貿易又は投資に影響を及ぼすその他の腐敗行為を犯罪とするための法令を採用し、又は維持することに合意する。締約国は、また、自国の腐敗行為の防止に関する法令を効果的に実施することを約束する。さらに、締約国は、自国の公務員のための行動の規範又は基準を採用し、 又は維持することに努め、並びに利益相反を特定・管理し、公務員の研修を増加させ、贈与を抑制し、腐敗行為の報告を促進し、腐敗行為を行う公務員に懲戒その他の措置をとることを定める措置を採用し、又は維持することに努めることに合意する。本章の附属書において、TPP締約国は、医薬品又は医療機器の一覧への掲載及び償還に関する透明性及び手続の公正な実施を促進することに合意する。本附属書に規定する約束は、紛争解決手続の対象とはならない。

http://www.cas.go.jp/jp/tpp/pdf/2015/10/151005_tpp_Summary.pdf

TPP-212x300

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日立製作所南アフリカ事件

米国SECが2015/9/28に発表したところによると、日立製作所がFCPA違反で起訴され1900万ドル(約23億円)の制裁金を払う和解に合意しました。
SECによると、日立の南アフリカ法人が、南アフリカの与党「アフリカ民族会議」(ANC)のフロント企業(Chancellor House Holdings (Pty) Ltd.)と合弁で現地子会社を設立したのが2005年。この現地子会社の株式25%はANCフロント企業が出資したそうです。その後、日立製作所は二つの発電所建設を政府系企業(Eskom Holdings SOC Ltd., )から受注することに成功、フロント企業に「配当」として500万ドル、「成功報酬」として100万ドルを支払ったが、このうち「成功報酬」分は「consulting fees」名目で計上されていたとのことです。これらの支払いについて、実質的には「外国政党」への支払いであったにも関わらず適切に会計処理をしなかったということで、FCPAの会計条項違反で日立製作所は起訴され、日立は認否をしないまま1900万ドル(約23億円)の制裁金を払う和解に合意したというものです。

http://www.sec.gov/news/pressrelease/2015-212.html

これは、日本企業による外国「政党」への賄賂が摘発された初めてのケースです。FCPAは贈賄の相手方として、「外国公務員」(foreign official)や「外国の公職候補者」(candidate for foreign political office)と並んで、「外国の政党・職員」(foreign political party or official thereof)を列挙しているのが盲点でした。
また、アルストム事件やFIFA事件の流れで注目されるのが、捜査協力体制。DOJ/FBIは当然として、アフリカ開発銀行(AfDB)と南アの金融安定理事会 (FSB)が捜査に関与している点が注目されます。

hitachi

 

 

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FIFA会長の窮地

昨日、世界中を駆け巡ったのが一枚の「手紙の画像」。
FIFA会長の最側近である事務局長ジェローム・バルク氏(Jerome Valcke)宛の手紙のcopyです。
どこをどう読んでも「賄賂」という文字は出てこないのですが、サイン入り画像のインパクトは絶大。
本日、ゼップ・ブラッター会長は辞任を表明しましたが、どうなることやら。

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画像出典:BBCニュース http://www.bbc.com/news/world-africa-32973049

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FIFA事件「犯罪王リコの泣く夜は恐ろしい」

2015年5月27日、FIFA(国際サッカー連盟)の汚職事件が摘発され、DOJ(米国司法省)によってFIFAや企業関係者計14人が起訴されるとともに、スイス警察によって会議に参集していた現役のFIFA副会長2人を含む7人が逮捕されました。DOJのトップに就任したばかりのロレッタ・リンチ司法長官、衝撃のデビューです。

キーワードとなるのはRICO法(Racketeer Influenced and Corrupt Organization Act)。いわゆるアメリカ版の組織犯罪処罰法です。1931年公開のマフィア映画「犯罪王リコ」にちなんで「リコ法」と呼ばれるこの法律。サッカーを司る国際組織FIFAに適用されたというのは、確かに衝撃的です。

日本のメディアの多くが「贈収賄」や「賄賂」という見出しで報じたこともあり、「えっFIFAの役員って(外国)公務員なの?」、「FCPAが適用されたの?」といった問い合わせが殺到しましたので、簡単に整理してみます。
DOJが今回公表しているWebb et al. Indictmentをみると、訴因が47個も列挙されています。

http://www.justice.gov/opa/file/450211/download

メインとなるのは、RICO法で規定されている「組織犯罪の共謀」(Racketeering Conspiracy:ラケッティア行為の共謀)です(Title 18, United States Code, Sections 1961(1) and 1961(5))。

この「ラケッティア行為」というのがややこしいのですが、マフィア等の組織・集団が恐喝等の違法行為(=ラケッティア行為)によって不正に利益を得ている場合、その一つ一つの行為をその都度摘発するのでは(いたちごっこで)組織犯罪を十分には処罰できないので、脅迫行為等が(反復)継続 (pattern of racketeering activity)していると認められる場合は、その組織(=エンタープライズ)の運営に関与すること自体を犯罪として処罰しようというもののようです(日本の組織犯罪処罰法の母体ともいえる法律です)。

したがって、このRICO法は二段構えの構造になっており、基本犯罪としてmurder, kidnapping, gambling, arson, robbery, bribery, extortion等の犯罪がまず列挙されており、つぎにそれらの犯罪が「10年間に2個生じた」場合に、pattern of racketeering activityが認められ(他にunlawful debtもありますが)、継続的ラケッティア行為を遂行した組織の運営に関わること自体が犯罪になるというものです。

今回のFIFA事件では、訴因として、Wire Fraud Conspiracy(電信詐欺。Title 18, United States Code, Section 1343)や、Money Laundering Conspiracy(マネーロンダリング。Title 18, United States Code, Sections 1956 and 1957) 、Unlawful Procurement of Naturalization(帰化申請手続における虚偽申告。Title 18, United States Code, Sections 1425)、obstruction of justice(捜査妨害、Title 18, United States Code, Section 1512)等が挙げられていますが、これらが基礎犯罪にあたるものと思われます。

そうした犯罪が(なかには20年以上も)継続して為されていたと言えるので、FIFAの役員やスポーツ関連企業、関係者が「エンタープライズ」(組織)とみなされて、その組織の運営行為に関わった人々にRICO法が適用された(適用できた)という構図です。

組織の運営行為の中には、不正旅行罪(interstate and foreign travel in-aid-of racketeering、Title 18, United States Code, Section 1952)と並んで、贈収賄罪(bribery, New York State Penal Law Sections 180.03 and 180.08)が登場します。このNew York州刑法の贈収賄罪、実は商業賄賂を罰しています。賄賂を贈る相手が公務員でなくてもよい訳です。

つまり、今回の事件は、FCPAの事件ではありません。

なお、Wire Fraudはワイヤーを利用した「詐欺」ですが、実質的には、賄賂・キックバックをもらうことで職務を汚したということで、日本でいえば背任に近いものと思われます。また実務的には、「所得の虚偽申告」(Aiding and Assisting in the Preparation of False and Fraudulent Tax Returns、Title 26, United States Code, Section 7206(2)等)という税法上の犯罪が訴因として挙げられている点も見逃せません。

過去の国際サッカー大会の関係者、スポンサード契約を締結した企業の担当者だけでなく、2020年の東京オリンピックに向けて各種の準備行為を営んでいる方にとっても、ただ事ではない今回のFIFA事件、引き続き注視していきたいと思います(次回のBERC外国公務員贈賄罪研究会で集中的に取り上げる予定です)。

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フジクラの中国子会社が「非公務員に対する贈賄罪」で起訴

時事通信が本日(2014年10月27日)、「フジクラの中国における連結子会社が非公務員に対する贈賄の疑いで、同国の地方検察当局から8月に起訴された。他に同社の中国人営業幹部が贈収賄の疑いで、外部の民間コンサルタント会社の中国人社員が収賄の疑いで起訴された」旨を報じています。
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2014102700758

株式会社フジクラの公式サイトには、以下のような内容のプレスリリースが公表されています。
http://www.fujikura.co.jp/newsrelease/__icsFiles/afieldfile/2014/10/27/newsrelease20141027.pdf

  • 中国の子会社「珠海藤倉電装有限公司」(FZL社)は、フジクラが49%、フジクラ電装が51%を出資する連結子会社である。
  • そのFZL社の中国人営業幹部を、2014年3月以降、中国の地方検察当局が「贈収賄」の嫌疑で調査した。FZL社も関係書類を押収された。
  • 2014年8月18日、中国人営業幹部と他の個人、及びFZL社が「非公務員に対する贈収賄」の嫌疑で起訴された。近日中に第1回の裁判が行われる予定
  • FZL社は、このような嫌疑を受けたことを重く受け止め、既に内部監査機能の強化、法令遵守の教育等を実施しており、再発防止に務める。
  • 事実関係の確認は裁判での開示を待たざるを得ない状況。判決等による一定の結論に至った場合は改めて情報開示を行う。

このプレスリリースによると、FZL社が営業幹部等とともに「贈収賄」で起訴されたという表現なので、贈賄側と収賄側の双方を兼ねているようにも読めます。

しかし、時事通信の報道によれば、贈賄と収賄双方の疑いをかけられているのは営業幹部だけで、FZL社自体は「組織体」(≒法人)による「非公務員に対する贈賄」(つまり、刑法164条1項)、外部の民間コンサルタント会社の中国人社員が「収賄」(おそらく非公務員による収賄罪(刑法163条)でしょうか)の被疑事実で起訴されたということのようです。事実関係の確認が裁判での開示を待たざるを得ないという状況とのことですが、内部監査、内部統制の限界を吐露した正直なプレスリリースだと思われます。

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JTC事件、元社長ら3名が外国公務員贈賄罪でついに起訴

本日、外国公務員贈賄罪の疑いで東京地検特捜部は、日本交通技術(JTC)の前社長(6/30付で引責辞任済み)、元常務(元国際部長)、元経理担当役員の3人を在宅起訴し、法人としてのJTCも起訴されたと各社が報道しています。起訴されたのは、ベトナムでの「ハノイ市都市鉄道建設事業」をめぐる計6990万円の贈賄ということです。
JTCは7/10付けで「起訴に関するお知らせ」という短いプレスリリースを発表しています。
http://www.jtc-con.co.jp/oshirase.pdf

screenshot

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