ソシエテジェネラル、FCPA違反で640億円の罰金

仏銀ソシエテジェネラル(Société Générale)と子会社SGA Société Générale Acceptance N.V.は4日、カダフィ時代のリビアにおける贈賄で、米仏当局に $585 million(約640億円) を払うことで合意したとのことです。

ソシエテは、2004年から2009年にかけて、リビアでの投資案件に絡むマージン計$90 millionをリビア人ブローカーに支払い、その一部がリビア政府高官に渡ったとのこと、つまりIntermediaryを介在させた外国公務員贈賄罪ということです。

他に、LIBOR(London InterBank Offered Rate )操作の件で$275 million、さらにCFTC(Commodity Futures Trading Commission )に対しても$475 millionを払うということで、今回ソシエテジェネラルに科せられる罰金額の合計は$1.335 billion (約1460億円)に達します。

 

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パナソニック子会社の不正会計 「310億円制裁金」の深層

本日(2018/6/4)発売のエコノミストに、「パナソニック子会社の不正会計 「310億円制裁金」の深層  日本を代表する大企業グループ内で起きた不正取引は、海外子会社の内部統制の難しさを浮き彫りにした」というタイトルの拙稿が掲載されました。

これは、パナソニックと子会社であるパナソニックアビオニクス社が4月にFCPAや証券取引所法違反で2.8億ドルの制裁金(不当利得吐き出し金)を払った事件について、特になぜDOJが会計条項を適用したかという点に焦点をあてて分析したものです。

お読み頂ければ幸いです。なお、当該論文は個人的見解を表明したものであり、筆者の属する組織の公的見解を代表するものではありません。

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パナソニック、FCPA違反で310億円支払い合意

2018/4/30、パナソニックと子会社「パナソニックアビオニクス」(PAC)は、米国証券取引委員会(SEC)と司法省(DOJ)との間で、航空機用AVシステムの納入に関するFCPA違反に対して、2億8060万ドル(約310億円)の制裁金を払うことを合意したと報じられました。

5/1、パナソニック本社が発表したプレスリリースは以下の通りです。

当社および当社米国子会社であるパナソニック アビオニクス株式会社(以下、PAC)は、米国証券取引委員会(以下、SEC)および米国司法省(以下、DOJ)と、PACの事業に対する調査に関して合意に至りました。本調査については、2017年2月2日付リリースでお知らせしています。

PACは、DOJおよびSECから、連邦海外腐敗行為防止法およびその他の米国証券関連法に基づき、航空会社との特定の取引およびその取引に関連するエージェントやコンサルタントの起用に関する活動について調査を受けていました。

当社およびPACは、上記の合意に基づき、米国政府に対し合計280,602,830.93米ドルを支払います。なお、今回の制裁金の支払いによる2017年度の連結業績予想への影響は、2017年度第3四半期までに引当て済みのため、重要なものではありません。

PACは、第三者によるコンプライアンスに関するモニタリングを今後2年間受け、その後、さらに1年間、コンプライアンスに関する自主報告をDOJに対して行うことで合意しました。それに加え、当社は、PACの企業風土の改革に向け、幅広いコンプライアンスおよび内部統制の強化を監督します。これらの措置には、PAC経営陣の刷新および第三者のエージェントやコンサルタント起用の削減や管理強化が含まれています。

当社は、この度の事態を真摯に受け止め、グループ内のコンプライアンス意識を高めると共に、グローバルに子会社への監督を強化して参ります。

https://news.panasonic.com/jp/topics/20180501.html

このパナソニックのFCPA違反事案は、かねてより捜査の対象となっていたもので、今回、ようやく決着がついたことになります。日本を代表する名門大企業が関わるFCPA違反事件として、約310億円に達する「罰金」の巨額さと相まって、大きな社会的反響を呼ぶでしょう。しかし、そうであるならば、プレスリリースの内容が通り一遍に過ぎないか、捜査が始まった時期ならいざ知らず、トランプ政権下で「通商の不公正」是正が主要政策となっている現在の状況で適切な情報開示と言えるか、議論を呼びそうです。少なくともこの事件を今回初めて知った人にとっては、これだけでは何がなんだかわからない内容の薄さでありますし、また、かねてから注目してきた人々にとっては、何だか他人事のように読める文面となっていることは否めません。

いずれにしても、このパナソニックFCPA事件は、次回の外国公務員贈賄罪研究会で集中的に検討・議論していきたいと思います。

 

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2018年の腐敗防止、司法取引と中国の改正不正競争防止法施行

2018年(平成30年)になりました。明けましておめでとうございます。本年も宜しくお願い申し上げます。

昨年2017年は、FCPA制定40周年、OECD外国公務員贈賄防止条約締結20週年という記念すべき年でしたが、残念ながら、ロールスロイス事件やテリア事件といったFCPA巨額罰金事件の摘発が相次ぎ、オデブレヒト事件も引き続き中南米の政界を揺さぶっています。草葉の陰でFCPAの父プロクシマイヤー氏も悲しんでいることでしょう。

しかし、OECDが2017/12/12に開催した記念シンポジウムでも語られたように、外国公務員贈賄罪を中心とする腐敗をいかに防止するかという取り組みは今後もいっそう強化されていき、その流れは止まらないものと思われます。

そこで、腐敗防止という観点から、2018年に注目すべき点を幾つか列挙したいと思います。

まず日本では何と言っても、贈収賄罪にかかわる「司法取引」が導入される点です。これは、2016/5/24に第190回国会で成立した「刑事訴訟法改正案」(第189回国会閣法第42号)によって導入された刑事司法制度ですが、いよいよ運用が開始されます(2016/6/3に公布された改正法(法律第54号)の当該箇所は3年以内に「施行」されることになっています)。内容的なポイントは以下の通りです。

  1. 組織的犯罪・経済犯罪の「上位者・背後者」を解明するため、「合意制度」が新設される(改正刑訴法350条の2~28等)。
  2. 被疑者・被告人が、他人の刑事事件について、①取調・証人尋問における真実の供述、②証拠提出その他の協力をすることを検察官と「合意」した場合、検察官は、①不起訴、②公訴取消、③特定訴因・罰条での公訴提起、④即決裁判申立て、⑤略式命令請求することが出来る。
  3. 司法取引の対象となる「他人の刑事事件」は、贈収賄/詐欺/背任/恐喝/横領/ 文書偽造/公正証書原本不実記載/偽造公文書行使や、租税法/金融商品取引法/独禁法/財政経済犯罪/薬物犯等という組織的犯罪・経済犯罪に限定される(「特定犯罪」)。
  4. 弁護人の同意が必要、合意内容書面の取調べ請求義務があり、虚偽供述・偽造証拠提出は5年以下の懲役が科せられる。

といったものです。つまり、アメリカで一般的な自己負罪型ではなく、「捜査・公判協力型」の司法取引であり、かつ、外国公務員贈賄罪(不正競争防止法)は対象ではないが、刑法上の「贈収賄罪」(いわば内国公務員贈(収)賄罪)が対象となるというものです。

企業コンプライアンスとしては独禁法との関連が最重要領域となるでしょうが、贈収賄を中心とする腐敗防止の観点からは、日本でも司法取引が導入されることの意義はとても大きいものになると考えられます。特に内部通報制度の運用や「社内リニエンシー」制度の構築にあたっては、将来的に司法取引制度に乗ることの可能性を考慮した再設計が必要となるでしょう。

次に、中国の不正競争防止法が改正され、2018/1/1から施行される点です。これは、2017年11月4日に第12期全国人民代表大会常務委員会第30回会議で可決、公布された法改正によって、商業賄賂(民民贈収賄)の行政法的規制が強化されるといものです。詳細は12月のBERC外国公務員贈賄罪研究会で検討しましたが、ポイントは、取引に「影響力を及ぼす個人」をどう把握していくかという点です。内容を見てみましょう。

第7条  経営者は、金品その他の手段を用いて次の各号に掲げる企業・組織や個人に贈賄して、取引の機会や競争における優位の獲得を図ってはならない。

(1)取引相手の従業員
(2)取引相手からの委託を受けて関連事務を行う企業・組織または個人
(3)職権または影響力を利用して取引に影響を及ぼす企業・組織または個人

経営者は、取引活動において、明示の方法をもって取引相手に支払いの割引を与えるか、仲介人に対して手数料を支払うことができる。経営者は、取引相手に支払いの割引を与えるか、仲介人に対して手数料を支払う場合には、真実のとおり記帳するものとする。割引または手数料を収受した経営者は、真実のとおり記帳しなければならない。

経営者の従業員が贈賄した場合は、それを経営者の行為と認定する。ただし、経営者が証拠をもって、当該従業員の行為は、経営者のために商機または競争上の優位を獲得することと無関係であることを証明した場合は、この限りでない。

第19条  経営者が本法第7条の規定に違反して他人への贈賄を行った場合、監督監査機関は違法所得を没収し、10万元以上300万元以下の罰金を科す。事案が重大である場合は、営業許可証を取り消す。

出典:JETRO北京事務所「不正競争防止法新旧法対照表」(2017.11)

この該当条文のうち、下線を引いた「職権または影響力を利用して取引に影響を及ぼす企業・組織または個人」という贈賄対象者の第三類型が、問題です。

「取引先の従業員」や「業務委託を受けている会社・個人」ならば、(ある程度)客観的に把握することが可能ですが、「影響力を及ぼす個人」となると、その外延は甚だ不明確になります。取引先社長(総経理)の配偶者なのか、子弟なのか。中国ビジネスで不正競争防止法を遵守するために、いったいどの程度までコストをかけて取引先DDをすれば良いのか、今後の中国ビジネスにおける焦点になりそうです。

最後に、国連グローバル・コンパクトが第10原則で謳っている「腐敗防止」について、東京を舞台として新しい動きがありそうです。腐敗防止強化の動きは世界中で様々なレベルで展開されていますが、その一つの動きとして、要注目です。

BERCの外国公務員贈賄罪研究会では引き続き、FCPAやUKBAといった外国公務員贈賄罪を筆頭に、世界の腐敗防止制度の研究を深めていくとともに、日々刻々と変わっていく地政学的リスクの分析を進めていきたいと思います。

 

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ロシア、平昌冬季五輪から排除

2017/12/5、IOC (国際オリンピック委員会)はスイス・ローザンヌで開いた理事会で、ソチ冬季五輪におけるロシアのドーピング組織的不正(systemic manipulation of the anti-doping rules and system)を認定し、ロシアオリンピック委員会(ROC)を資格停止、2018/2の平昌(ピョンチャン)冬季五輪からロシア選手団を排除することを決定しました。

その他、ROCのジューコフ会長のIOC委員資格の停止、スポーツ大臣だったヴィタリー・ムトコ現ロシア副首相の永久追放、調査費用1500万ドル(約17億円)の負担要求も決まりました。

https://www.olympic.org/news/ioc-suspends-russian-noc-and-creates-a-path-for-clean-individual-athletes-to-compete-in-pyeongchang-2018-under-the-olympic-flag

ドーピングに関わっていない選手は個人として、五輪旗の下で参加できるという救済策は用意されていますが、祖国の国歌・国旗の下で競技に臨む道が絶たれた訳で、厳しい処分となりました。

その背景には、バッハIOC会長の言葉にあるように、今回のロシアによるドーピングは「オリンピックとスポーツのインテグリティに対する前代未聞の攻撃(unprecedented attack on the integrity of the Olympic Games and sport)」であり、これを看過したら「オリンピック・スポーツの価値が崩壊してしまう」という、強い危機感があったことがあると考えられます。

今回の処分の根拠となった「Report of the Schmid Commission」は、リオ五輪前のWADA報告書の発展版ともいえるもの。少なくともリオ五輪時に騒がれたドーピング問題は(招致贈賄疑惑と並んで、日本では終わった話題のような扱いになっていましたが)、幕引きになっていた訳ではないということが明らかになりました。

オリンピックにおけるドーピングの問題とキー概念である「インテグリティ」については、一部ですが、昨年のリオ五輪開催時に講談社「現代ビジネス」で書かせて頂きましたので、それをお読みいただければと思います(プレミアム会員限定になっているようなので、これを機に入会してみてください)。

『「オペレーション・アウゲイアス」リオ五輪の水面下で進められる、ドーピング壊滅作戦の実態  「五輪と薬物」通史』

いずれにせよ、大国ロシアを排除する今回のIOC決定は大きな波紋を広げそうです。

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週刊エコノミスト「サウジ皇太子が掲げる聖域なき摘発、日本企業進出の窓口一新も」

ムハンマド皇太子の主導する腐敗摘発は今後どうなるのか、日本企業へはどう影響するのか。

これらの点について、本日発売の「週刊エコノミスト2017年12月12日号」に、「サウジ皇太子が掲げる聖域なき摘発、日本企業進出の窓口一新も」というレポートを寄稿させて頂きました。巻頭部の14-15 頁です。

お読みいただければ幸いです

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「腐敗のゼロ・トレランス摘発」という最強カード

今回のサウジアラビアの粛清では、「腐敗摘発」という大義名分が使われている点が注目されます。

権力闘争の手段として「腐敗の摘発」を利用するというのは、現代では、中国やベトナムといった社会主義国のお家芸となっており、例えば中国では習近平総書記(国家主席)が、盟友である王岐山が率いる「共産党中央規律検査委員会」を駆使して、周永康、薄煕来、令計画、郭伯雄、徐才厚らの大物政敵を次々と収賄罪等の嫌疑をかけて追い落とし、権力の基盤固めに成功しています。

また、ベトナムでも同様に、最高権力者グエン・フー・チョン書記長が、失脚したズン前首相に連なる経済人脈を汚職の嫌疑で摘発しています(詳細は、エコノミスト2017年10月17日号をお読みください)。

それは、腐敗の摘発が政治的な意味で、誰しもが正面からは反対できない現代の「最強のカード」だからです。

これまでに習近平総書記とチョン書記長、サルマン国王と習近平総書記との間で、首脳会談が実施されておりますが、少なくとも前者では腐敗摘発というカードについて話し合いがなされたと報道されています。

このカードが、サウジアラビアで使われた、しかも「ゼロ・トレランス」で。これこそが、今回の粛清が世界に衝撃を与えた理由の一つだと考えられます。

ゼロ・トレランス(zero tolerance)とは「聖域なき取り締まり」を行うということ。実は、ムハンマド副皇太子が提唱したVision2030 には腐敗防止が組み込まれていました。

Embracing transparency

We shall have zero tolerance for all levels of corruption, whether administrative or financial. We will adopt leading international standards and administrative practices, helping us reach the highest levels of transparency and governance in all sectors. We will set and uphold high standards of accountability. Our goals, plans and performance indicators will be published so that progress and delivery can be publicly monitored. Transparency will be boosted and delays reduced by expanding online services and improving their governance standards, with the aim of becoming a global leader in e-government.

http://vision2030.gov.sa/en/node/106

「Embracing transparency」つまり透明性の確保という段落で、「管理部門から財政部門まで、あらゆるレベルの腐敗に対してゼロ・トレランスで望まなくてはならない」と明言されていたのです。

反撃を許すことなく有力者を一斉に拘束し、高級ホテル「リッツ・カールトン」に幽閉することに成功した今回の粛清劇は、その手際の良さからみても、周到に用意されていたものだったに違いありません。そして、Vision2030に忍び込んでいた腐敗撲滅のゼロ・トレランス宣言は、今回の粛清の布石だった可能があると考えられます。

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サウジ粛清の背景

今回の粛清劇で、なぜ重臣の一斉拘束という強硬策が取られたのでしょうか。

2015年1月にアブドラ前国王が逝去し、サルマン現国王(King Salman bin Abdulaziz Al Saud)が王位を継承して僅か3ヶ月後、当時国防相だった七男ムハンマド氏(Mohammed bin Salman(通称MbS)。当時、国防相兼経済開発評議会議長)が副皇太子に任命されました。それ以来、彼が国王の後継者であることは規定路線だったと言って良いでしょう。

初代国王アブドゥルアジズの子孫であるファイサル家やアブドラ家といった名門諸家の間の均衡を重視する時代は去り、スデイル家(スデイリー・セブン。初代国王の妻ハッサ・スデイリー妃を母とする7兄弟の家系)、なかでもサルマン家を重用する傾向は明らかになっていました。ムハンマド副皇太子氏の有能さを評価する声は高く、このままいっても国王継承には問題がなかったはずです。

また、ムハンマド副皇太子は就任後、経済政策の実権を握る経済開発評議会議長として、原油産出に依存してきたサウジの国家経営を根底から改革することに着手し、2016年4月には、国営石油会社サウジアラムコのIPO(新規株式上場)等を柱とする包括的な経済改革プラン「Vision2030」を高らかに謳いあげ、2030年までに非石油収入を6倍超に増やすといった改革案を提示しています。

2014年秋以降の原油価格の低迷で、国民の7割を占める公務員からなる中間層の生活は苦しくなる一方であり、失業率も12%に上昇。財政赤字が積み上がる中で、構造改革を実現できる次世代のリーダーとしてムハンマド副皇太子に期待する声は高かったといえるでしょう。また、外交面でも、イランに対して徹底した強硬姿勢を取り、一部で緊張激化を懸念する声は出たものの、サウジ国内でムハンマド副皇太子の強力なリーダーシップを賞賛する声が多かったのも事実です。

しかし、そのムハンマド副皇太子が直面したのが、足元の「抵抗勢力」です。人口3100万人のサウジには1万5000人とも2万人とも言われる王族がいますが、ありとあらゆる利権に特権階級の王族が関与しているのが常識とのこと。

ムハンマド氏の目玉政策であるサウジアラムコのIPOも、上場によって財務情報を含めた情報開示を徹底させることで利権を透明化する狙いがあったと言われていますし、また、娯楽産業の解放や女性の自動車運転の解禁等、ムハンマド氏が開明的な政策を打ち出せば出すほど、守旧派の王族や宗教界からの反発が強まっていました。

つまり、コンセンサスを重視するあまり遅々として改革が進まないことに業を煮やしたムハンマド氏が、国内での膠着状況を打破すべく、皇太子就任後わずか4ヶ月にして、前国王派を中心とする抵抗勢力を一掃して権力基盤を強化すべく、一気呵成に前例のない強硬策に踏み切った-。これが今回の粛清劇だと考えられます。

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サウジアラビアの最高委員会(supreme committee)

11月4日にサウジアラビアで始まった大規模な腐敗摘発ですが、粛清の端緒は、摘発直前にサルマン国王が発表した以下の内容の勅令でした。

第一に、皇太子をトップとする「最高委員会」(supreme committee)を創設する。メンバーは、監視捜査委員会委員長(Chairman of the Monitoring and Investigation Commission)と国家腐敗防止委員会委員長(Chairman of the National Anti-Corruption Authority)、監査局長(Chief of the General Audit Bureau)、検事総長(Attorney General)と国家保全省長官(Head of State Security)である。

第二に、最高委員会は、法令・規制の制限を受けることなく(Exemption from laws)、以下のタスクを遂行する。

❶腐敗に関与した個人・法人、犯罪・違法行為を特定すること
❷捜査、逮捕状の発布、海外渡航禁止、銀行口座・資産の開示と凍結、資金・資産の追跡、海外送金の防止。委員会は、捜査機関・司法機関に委ねるまでは、あらゆる保全措置を講ずることが可能であり、国の内外を問わず腐敗に関わる資産を国庫に戻し国有財産として登録することが出来る。

第三に、委員会は捜査・訴追等のチームを編成でき、権限を委任することが出来る。

第四に、委員会は義務を完了した暁には、詳細な報告書を提出しなければならない。

第五に、この命令は関係省庁に周知徹底されなければならず、全ての関係者は完全に協力しなければならない。

サウジ国営ニュースサイト「アル・アラビヤ」に基づいて作成
http://english.alarabiya.net/en/News/gulf/2017/11/04/Saudi-Crown-Prince-to-head-a-new-committee-to-combat-corruption.html

この国王勅令によると、ムハンマド皇太子が率いる最高委員会はあらゆる法令の制約を受けないで、捜査・逮捕から資産没収に至るまで超越的な権限を行使できる機関とされています。この点から、一部には今回の粛清劇を、超法規的に権力を再強化する非常手段が取られたという意味で、「逆クーデター」と呼ぶ向きもあります。軍部等が超法規的に権力を簒奪するクーデターとは逆にベクトルが働く非常事態という訳です。

しかし、サウジは絶対君主制の国家であり、超越的な権限を行使するとはいっても、国王大権に由来した権限を行使しているに過ぎません。その意味では政治的粛清(Political Purge)の一環に過ぎないという方が正確でしょう。

その意味で興味深いのが、今回の摘発主体となっている組織が「supreme committee」という名称になっていること。

日本メディアの多くは、これを「汚職対策委員会」や「反腐敗委員会」と訳出していますが、実際には「至高性」を正面から掲げている名称であることは見落とせないポイントだと思います。この組織の権限規定自体は、例えばインドネシアのKPKなどの腐敗摘発機関のものと大した違いはないのですが、絶対君主国家における国王大権に由来して超法規的措置を取るという性格を如実に表しているのが、この「最高委員会」という名称だと思われます。

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サウジアラビアの腐敗摘発

11月4日、サウジアラビアで突如、大規模な腐敗摘発が始まりました。ムハンマド・ビン・サルマン皇太子(Mohammed bin Salman)(32歳。通称MbS)が主導し、サウド家の王子11人、閣僚4人を含む数十人がいっせいに拘束されたと伝えられています。

https://english.alarabiya.net/

拘束された者の中には、

  1. アブドラ前国王の息子であるムトイブ国家警備相
  2. 有力者のファキーフ経済計画相
  3. 著名な大富豪投資家アルワリード・ビン・タラル王子
  4. 大手建設会社会長のバクル・ビン・ラディン氏

が含まれています。前国王に近い王族・有力者や、あるいはMbSの皇太子昇格(2017/6/21)に異を唱えた関係者が含まれていることから、ムハンマド皇太子に権力を集中させるための「政治的粛清」という側面が強いといえます。

サルマン国王が勅令を出して「最高委員会」(supreme committee)を創設した直後の粛清劇に、世界中で衝撃が走っています。

摘発は現在も続いており、拘束されている人間は200人超、凍結された銀行口座は330億ドル(約3兆7000億円)超と報じられています。現地系メディアによっては拘束者が千人を超えているとしているところもあり、予断を許さない状況です。

今回拘束されたのは、賄賂を「もらった側」の王族・有力者ですが、次の段階では賄賂を「贈った側」に捜査の焦点があたらないとは限りません。サウジアラビアビジネスにコミットしている企業にとって、リスクが大きく変動する重大局面を迎えているといっても大げさではありません。

最新のサウジアラビア情勢を踏まえて、今回の粛清劇が何を意味するのか、今後どうなっていくのかについて、次回のBERC「外国公務員贈賄罪研究会」で分析します。

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タイと外国公務員贈賄罪

今月のBERC「外国公務員贈賄罪研究会」は、タイ特集です。

タイといえば、「腐敗防止法」が2年前に改正され、

❶贈賄罪・外国公務員贈賄罪(5年以下の懲役・10万バーツ以下の罰金)
❷収賄罪・外国公務員収賄罪(死刑・終身刑・5年以上20年以下の懲役・10万バーツ以上40万バーツ以下の罰金)
❸法人責任(両罰型、適切な内部措置を講じていないことが要件)=賄賂額の2倍以下の罰金

が追加されました(Organic Act on Counter Corrpution, No.3 B.E. 2558(2015))。2011/3/31にタイがUNCAC(国連腐敗防止条約)に加盟してから4年、ようやくタイにも外国公務員贈賄罪が導入された訳です。

この改正によって腐敗防止法は、「国家汚職防止委員会」(National Counter Corruption Commission :N.C.C. Commison または National Anti-Corruption Commision:NACC)の設置法と一部の汚職関係犯罪にとどまらず、実質的な贈収賄罪の実定法として機能するようになりました。

タイ政府は、国家戦略として「第三次腐敗防止国家戦略」(Natioanl Anti-Corrupution Strategy –Phase 3 (2017-2021))を策定しており、実際に35個の政府プロジェクトでIntegrity pactが締結されたほか、2015/7/21には「免許付与手続法」(Licensing Facilitaiton ACT)が制定されるなど、ビジネス環境の整備が着々と進んでいます(ちなみに、第三次腐敗防止国家戦略における戦略的目標は、「CPIの上位50%に入る」ことだと規定されています。なんとも分かりやすい目標ですね)。

今回の外国公務員贈賄罪研究会では、タイに進出している日本企業2社による事例発表とともに、タイの腐敗防止制度について解説していきたいと思いますが、タイ・ビジネスで重要なのは、もちろんそういったことだけではありません。

日本企業とタイの腐敗については、なんといっても2009年の「西松建設事件」が記憶に新しいところです。

2003/7、西松建設が現地の「イタリアン・タイ・ディベロップメント社」(ITD)とJVを組んで、バンコク都庁の「洪水対策トンネル工事」を落札(66億円)した際に、4.8億円相当の賄賂が供与されたのではないかという疑惑です。報道によると、うち3.5億円が政府高官、1.3億円が汚職監視機関に渡され、西松建設は2.4億円を負担したとも伝えられています。

2008/6/4に東京地検特捜部が外為法違反の容疑(裏金7000万円の持ち込み)で西松建設本社を家宅捜索し、翌2009/1/14には、社長(元管理本部長:経理統括)・腹心の副社長らが外為法違反で逮捕されました(なお法人も略式起訴されており、罰金100万円が確定しています)。

重要なのは、バンコク都庁の公務員(政治家)すなわち外国公務員への贈賄として、外国公務員贈賄罪事件の捜査も進んでいたという点です。

タイ側も2009/4/21には、前述した 「国家汚職防止委員会」(NACC)に特別捜査委員会を設置し、日タイ両国で同時進行的に捜査が進みましたが、結局、「外国公務員贈賄罪」での立件はなされませんでした(なお、日本の国税庁は6億円を追徴課税しています)。

2009/5/15に公表された、西松建設の内部調査報告書によると、

①海外ペーパーカンパニーで裏金9億円(うち4.7億円が使途不明)を捻出した。
②そのうち、日本に3.3億円持ち込み、うち1.4億円を海外事業副部長が着服した。
③タイでは、JV現地企業に2.2億円を仲介手数料として渡した。

とのことでしたが、2.2億円の「仲介手数料」の賄賂性についての判断はなされないままで終わってしまった訳です。

それはなぜだったのか。

色々な見方ができると思いますが、一つには、この事件は、タイでの贈賄疑惑と別に、日本国内での政治献金事件の流れに棹さしていたという事情があります。政治家の資金管理団体への企業献金は1995年の法改正で禁止されましたが、その後に西松建設が生み出した「個人献金を偽装した政治家の資金管理団体への企業献金スキーム」が当時、捜査の焦点になっていました。西松建設が新設した「特別賞与加算金」(11億円相当)を原資とする5.9億円が二つの政治団体に流れ、そのうち4.8億円が政治献金やパー券購入の名目で政界に流れたのではないかということで、日本中が大騒ぎになった事件です。ここでは詳細に立ち入りませんが、その一連の過程で、傍流たる「外国公務員贈賄罪としての立件」が見送られたという事情は指摘できると考えられます。

もう一つは、タイの国内事情です。2003年当時のバンコク都知事だったのはサマック氏(Samak Sundaravej)。後に首相に昇りつめるサマック氏が事件捜査当時どのようなポジションにいたかを、タイ政治史の中で位置付けることが、背景事情の理解には必要です。1997年の憲法改正で小選挙区制が導入されたことを契機に、今に至るまで20年に渡って継続しているタイ政治における「タクシン派と対抗勢力の争い」が始まったと言える訳ですが、その流れの中でサマック氏が果たしてきた役割の分析が重要だと考えられます(これ以上は研究会で検討したいと思います)。なお、反タクシン派がタクシン派打倒の手段として度々利用したのは、皮肉にも同じ1997年の憲法改正が導入した憲法裁判所と汚職防止委員会でした(両者の争いに起因する混乱が制御しきれなくなると軍部がクーデタを起こしタクシン派政権を潰すというループが続いていますが、潰すたびに、タクシン派が強固になっているような気がします。2017/9/23にはタクシン氏の妹であるインラック前首相が、コメ担保融資制度の導入で国庫に莫大な損失を与えたということで汚職防止委員会によって追及され、遂に国外逃亡しました。しかし、今なお両勢力の争いに最終的な決着がついた訳ではありません)。いずれにせよ、タクシン派を巡る激しい抗争の中で、「バンコク都庁公務員」への贈賄疑惑がかき消されてしまったのではないかと思われます。

それにしても、日本とタイ双方で同じように既存勢力(establishment)に闘いを挑んだ二つの政治ベクトルが、西松建設を交点として偶然にもクロスした時に、日本とタイを舞台とする外国公務員贈賄罪疑惑がふと浮かび上がった—。これが、西松建設タイ事件だったのかもしれません。そうだとしたら、その儚い事件が、圧倒的な政治的熱量を有した政治的闘争の中で立件されることなく消えていったのは、ある意味では仕方がなかったと言えるでしょう。

 

 

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比例選出国会議員の「政党間の移動禁止」

10月22日の総選挙は、自公の圧勝、希望の完敗、立憲民主の躍進に終わりました。

9月25日に開かれた安倍総理の解散表明会見の機先を制するように、小池百合子東京都知事が新党「希望の党」代表就任を発表した時、日本中がまさかの政権交代を期待する興奮に包まれたと言っても過言ではありませんでした。自民党と切磋琢磨する、改革保守政党がいよいよ誕生するかという期待が高まった訳です。

しかし、解散当日の9月28日、民進党の両院議員総会で前原代表が希望の党との「事実上の合流」を提案し了承された時から、歯車が狂い出しました。小池知事が翌日「排除します」と発言しましたが時既に遅しで、「排除の論理」という言葉が一人歩きし、希望の党は強い批判にさらされ、勢いが急速に衰えてしまいました。

代わって台頭したのが、枝野幸男氏が中心となって結党された立憲民主党です。「排除される側」の演出に判官贔屓の追い風が吹き、野党第一党の座は立憲民主党が獲得することになった訳です。

開票結果を受けて、民進党の前原代表が辞意を表明し、希望の党への合流路線は結局ご破算になり、希望の党がもう一度勢いを取り戻すのは現状では難しいと言わざるを得ません。また、民進党に所属しながら、今回の総選挙には無所属で出馬したベテラン有力議員は多数います。この不安定な状況が一時的なものであることは明白であり、野党再編の動きは必至と言えます。

では、どのような野党再編が起きるでしょうか。幾つかのシナリオを想定し、「比例代表選出議員の政党間移動禁止のルール」と、「政党交付金の分配ルール」を踏まえて、実現可能性を検討した小稿を現代ビジネスに寄稿しましたので、お読みいただければ幸いです。

「「野党再編」の動きは、この2つのルールを知れば読み解ける
  政界再編を裏から縛っているもの」

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53303

 

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週刊エコノミスト「ベトナムで相次ぐ汚職摘発 日本企業復権への好機にも」

ベトナムで相次ぐ汚職摘発について、10月10日発売の週刊エコノミスト(毎日新聞出版)に、「エコノミストリポート」として論考を寄稿させて頂きました。

ドイツで白昼の拉致事件 ベトナムで相次ぐ汚職摘発 日本企業復権への好機にも」というものです。

https://www.weekly-economist.com/20171017contents/

このエコノミストリポートでは、

  • なぜ、タイン氏はベルリンで拉致されたのか。
  • なぜ、ベトナムで今、汚職摘発の風が吹き荒れているのか。
  • ズン首相の失脚はどう関係しているのか。
  • ペトロベトナム(PVN)とペトロベトナム建設(PVC)の捜査の行方は?
  • 日本企業の取るべき策とは(ESG投資・国連グローバルコンパクト10・インテグリティ)

といった問題について、現時点での私の考えを書いてみましたので、お読み頂ければ幸いです。

特に注目されるのは、タイビン省の火力発電所建設プロジェクト(第2発電所)です。このプロジェクトで不正な会計処理を行ったとして、9月末にPVNの会計責任者をはじめとする4名のPVN、PVC関係者が逮捕され、更にPVC幹部3名も拘束されています。

日本の円借款によるODA事業として、送電線建設事業と合わせてこれまでに合計1220億円のODA資金が投入されているタイビン省の火力発電所ですが、第1発電所の案件は丸紅が単独受注、第2発電所は東芝と双日が受注したものです。

その案件がまさに今、ベトナム政府による汚職摘発の舞台になりつつあります。

7月23日のベルリン拉致事件は、実は、日本企業にとって看過できない「レッド・フラッグ」だった訳です。

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ベトナムで吹く汚職摘発の風

ベトナムで今、汚職摘発の風が吹き荒れています。

ペトロベトナム建設元会長のチン・スアン・タイン氏が「出頭」したのと同じ7月31日、ハノイで汚職摘発に関する「汚職防止中央指導委員会」(Central Steering Committee for Anti-Corruption)の第12回会議が、ベトナム共産党の最高指導者であるグエン・フー・チョン(Nguyễn Phú Trọng)書記長によって開催されていました。

タイン氏はいわばその人身御供、と言うと語弊があるかもしれませんが、いまベトナムで吹き荒れている汚職摘発の最重要ターゲットが「ペトロベトナム」と「ペトロベトナム建設」であることから、何が何でも身柄を押さえたかったのだと考えられます。

もちろん、ベトナム政府の基本政策として、汚職摘発の推進は確固たる地位を占めていることは間違いありません。例えば、2011年1月の 第11回共産党全国党大会で承認された「2011〜2020年社会経済開発戦略」は、次のように規定しています。

  1. 汚職や浪費の防止・排除の促進

汚職や浪費の防止・排除を断固として効果的に実施することは、共産党と国家の建設にとって重要で緊急で長期的な課題である。法律と管理体制を完成し、公務員の人格を向上させる。民主主義、透明化を実施し、監視活動を強化し、国民が国家の資産と予算の使用を監査できるように監査制度を作る。専門機関の能力を向上させ、汚職と浪費の行為を厳しく処罰し、国家の経済発展に応じて公務員の給与制度を改革する。汚職と浪費の摘発・防止におけるベトナム祖国戦線、各団体、国民、マスコミの役割を発揮する。

同じ社会主義国家である中国と同様に、汚職は人民の支持を失わせ共産党の支配を揺るがすことになりかねませんので、汚職摘発は、社会主義国家にとってプライオリティーが高い政策です。

しかし、今回の拉致劇の背景には、そうした一般的な事情とは異なるものが潜んでいると思われます。

それは、昨年のズン首相失脚です(この点についての詳細は別の機会に書きたいと思いますが、権力闘争の一環であるとの視点は極めて重要です)。

いずれにしても今回のベルリン拉致事件、日本ではあまり知られていませんが、現在の腐敗防止に関する国際潮流の中で、極めて重要な事件であると考えられます。

なお、ベトナムの汚職摘発で興味深いのは、収賄罪(刑法279条)や贈賄罪(289条)ではなく、「自己の職務を濫用し経済管理に関する国家規則を故意に侵犯して、重大な被害を引き起こした」(165条)というベトナム版特別背任罪が用いられていること。単に職権を濫用して損害を与えただけでは不十分で、「国家規則の違反」がないといけないという点です。

今回のチン・スアン・タイン氏の摘発に関して、本来使用してはならない公用車向けの「青ナンバープレート」を自分の私用車に装着していたことが喧伝されているのは、そのためでしょう。

ちなみにチン・スアン・タイン氏の車はレクサス(Lexus)の最上位SUVであるLX。ベトナムでのLX570の標準価格は53億5400万ドン(約2590万円)なので、相当な高級車ということになります。ドイモイ政策がもたらした経済成長の影には、圧倒的な経済格差が広がっている現状があります。

都市部(ハノイ・ホーチミン)との格差が拡大する地方

 

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韓国・金英蘭(キムヨンラン)法の射程と影響

今月のBERC「外国公務員贈賄罪研究会」は、韓国特集です。

韓国といえば昨年2016年9月28日に施行された「金英蘭法」(キムヨンラン法)が注目を集めています。金英蘭法といえば、民間人ジャーナリストや私立学校の先生を「公職者等」(公務員)に含めたことによって、全世界に衝撃を与えたことは記憶に新しいところです。

アップルが企業イベントWWDC2017への招待対象から韓国メディアを除外する等、グローバル企業の広報体制にも大きな影響を与えつつある金英蘭法。実は、適用対象が一部民間人にも拡大されているという民民贈収賄防止の流れに棹さしているだけではなく、内部告発や報奨金の規定も含めて、多くの示唆を与えてくれるものです。

そこで、今回の外国公務員贈賄罪研究会は、韓国に進出している企業による事例発表を中心として、金英蘭法について詳細に検討を加えていきます。ソウルで取材した最新情報もお届けしたいと思います。

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なぜ男はベルリンで拉致されたのか

7月23日、ベルリン中心部で一人のベトナム人男性が、武装した集団に拉致されました。

拉致された男の名前はチン・スアン・タイン(Trinh Xuan Thanh)氏。国営ベトナム石油ガスグループ(ペトロベトナム)傘下の建設会社「ペトロベトナム建設」(PetroVietnam Construction Joint Stock Corporation:PVC)の会長として、ハウザン省人民委員会副委員長や国会議員にも就任するなど権勢を振るっていた人物です。

http://www.afpbb.com/articles/-/3138009

タイン氏を拉致したのはベトナム情報部でした。実はタイン氏は、汚職の嫌疑でインタポールによる国際指名手配中であり、ドイツ政府に亡命を申請していた人物だったのです。

自国の領域内で、亡命申請中だった人物を拉致されたドイツ政府は激怒、ベトナム大使館関係者をペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物:Persona non grata)に指名し国外退去させるという報復措置を講じました。

拉致されたタイン氏は、10日後、ベトナムに姿を現しました。国営ベトナムテレビに出演し、虚ろな目で「自ら出頭した」と証言したのです(ビデオ出演)。拉致事件の関係者がチェコ当局によって逮捕され、既にドイツに引き渡されているとも伝えられています。チェコ経由でベトナムに強制連行された可能性が高いと思われます。

「自首した」と伝える国営ベトナムテレビジョン(VTV)

http://vtv.vn/trong-nuoc/ong-trinh-xuan-thanh-toi-da-ra-dau-thu-20170803190749407.htm

ちなみにドイツですが、ベルリンの壁が崩壊する前の東ドイツ時代、同じ社会主義国家ということでベトナムから留学生だけでなく、多くの労働者が東ドイツに出稼ぎに行っていた関係で、今でも一定のベトナムコミュニテイが存在しているとのことです。タイン氏が第二の人生を送ろうとしたドイツから拉致された際の絶望は、察するに余りあります。

なぜ、タイン氏はベトナム政府によって拉致されたのでしょうか。実はその背景には、ベトナムで今吹き荒れようとしている風があります。日本企業も巻き込まれるかもしれない、その風はいったいどういうものなのか。その詳細は、また次の機会に。

 

 

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「中間報告」とは何か

本日(6/15)の早朝、テロ等準備罪法案(いわゆる共謀罪の趣旨を取り組んだ組織犯罪対策処罰法改正案)が参議院本会議にて可決され、成立しました。

賛成165票、反対70票。「牛歩戦術」をとった野党議員3名の投票が議長の議事整理権(国会法19条)に基づく「時間制限」を超えたため、投票しなかったことにされました(「無効」ではありません。ちなみに他に4名の議員が投票していません)。

今回の法案採決の手続きで注目を集めたのが、法務委員会での採決を経ないで本会議で採決をするという、「中間報告」という手法。これは、国会法第56条の3が規定している手続きです。

国会法第56条の3

各議院は、委員会の審査中の案件について特に必要があるときは、中間報告を求めることができる。

○2  前項の中間報告があつた案件について、議院が特に緊急を要すると認めたときは、委員会の審査に期限を附け又は議院の会議において審議することができる。

第1項は、審査を付託した委員会で審査をしている最中の案件について、特に必要があるときに、その段階での審査状況の報告を求めることができると規定しています。これが「中間報告」です。

そして、その中間報告があった案件は、「特に緊急を要する」と認められる場合、議院の会議(つまり本会議)で審議することができると、第2項が規定しています。これが今回用いられた手続きです。

国会法の規定によれば、「特別な緊急性」という要件の認定主体は「議院」ですから、すなわち、議院による判断が下されれば、中間報告を踏まえた本会議での審議(採決を含む)が出来るという制度設計がなされていることがわかります。

実際に今回の法案審議では、6/15深夜(2:31開始)の本会議でまず①「中間報告を求めることの動議」が提出され、3人の参議院議員(民進・藤末健三議員、共産・辰巳孝太郎議員、維新・浅田均議員)による討論を踏まえて採決がなされました。結果は、

白色票(賛成)          百四十八票
青色票(反対)            九十票

で可決されました。次に、②法務委員長(公明・秋野公造議員)が中間報告を行い、続いて③「中間報告があった本改正案を直ちに審議することの動議」が出され、2人の議員(民進・田名部匡代議員、共産・井上哲士議員)による討論を踏まえて採決が行われました。結果は、

白色票(賛成)          百四十九票
青色票(反対)            九十票

で、この動議も可決されました。この①〜③の議会プロセスを踏まえて、本番たる④「中間報告があった本改正案の審議」が最終的に、2名の議員(民進・小川敏夫議員、共産・仁比聡平議員)による質疑と政府側答弁(金田勝年法務大臣、松本純国家公安委員長、岸田文雄外務大臣)、更に4名の議員(民進・蓮舫議員、自民・西田昌司議員、共産・仁比聡平議員、維新・東徹議員)による討論を経て、採決に付されました。その結果は、

白色票(賛成)          百六十五票
青色票(反対)            七十票

で、法案が賛成多数で可決されたということになります。

したがって、以上の立法プロセスを見てわかる通り、少なくとも形式的には、国会法の規定からすると手続き上の瑕疵があると言える訳ではありません。野党側が反発をしたのは、一連の法務委員会での議論の時間や内容を考慮すると、「特別な緊急性」の実質が認められないのではないかという問題だろうと思われます。今回の経緯からすると、通常国会の会期末が迫っていたという事情が「特別な緊急性」に該当すると言えるのか、まずは考えてみる必要がありそうです

この点に関しては、

(二) 中間報告後直ちに議院の会議において審議した例

第十六回国会 昭和二十八年八月四日の会議において、電気事業及び石炭鉱業における争議行為の方法の規制に関する法律案につき、労働委員長栗山良夫君から委員会の審査の経過について中間報告があった後、小林英三君外一名提出の「労働委員長から中間報告があった電気事業及び石炭鉱業における争議行為の方法の規制に関する法律案を国会法第五十六条の三の規定により本会議において審議することの動議」が可決され、議長河井彌八君は、直ちに同案を議題としたが、 寺尾豊君の動議により延会することに決した。翌五日同案の審議に入り、質疑、討論の後、同案は可決された。

というケースが参議院での先例とされています(出典:参議院事務局「平成二十五年版参議院先例録」332頁)。

この第16回国会(特別国会)の会期末は昭和28年 8月10日だったので、この時の中間報告は、会期終了日まで「6日」というタイミングでした。

これに対して、今回の国会(193回通常国会)の会期終了日は6月18日。つまり、本日の「中間報告」は会期終了まであと「3日」というタイミングだった訳です。

「特別な緊急性」という要件を、「時間的な切迫性」を重視する観点から考えると、「先例」として引用される案件の半分の時間的猶予と言え、許容されるように思われます。

ただし、「特別な緊急性」を、それ以外の要素、たとえば法案の重要性や、付託委員会における審議の成熟度、上程の必要性、法案を可決・成立させるタイミングに対する社会的期待といった要素も考慮するならば、必ずしも許容されるとは言えないということも可能かもしれません。

しかし、そうした多元的な事情に対する評価はそれぞれです。議院内閣制を前提とする限り、政府与党と野党とで異なる評価があることは当然に想定されます。時間的な切迫性以外の要素については、それこそ、その妥当性を巡って全国民の代表である国会議員が議会で議論して決するべきであり、国会法第56条の3が「議院の判断」に委ねているのはそれゆえではないかと思われますが、いかがでしょうか。

 

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コミーFBI長官の電撃解任

5/9、FBIのコミー長官が電撃的に解任されました。ホワイトハウスの声明は、次のような内容です。

The White House
Office of the Press Secretary
For Immediate Release
May 09, 2017
Statement from the Press Secretary

Today, President Donald J. Trump informed FBI Director James Comey that he has been terminated and removed from office. President Trump acted based on the clear recommendations of both Deputy Attorney General Rod Rosenstein and Attorney General Jeff Sessions.
“The FBI is one of our Nation’s most cherished and respected institutions and today will mark a new beginning for our crown jewel of law enforcement,” said President Trump.
A search for a new permanent FBI Director will begin immediately.

https://www.whitehouse.gov/the-press-office/2017/05/09/statement-press-secretary-1

コミー長官が今回「ターミネイト」されてしまった理由ですが、現時点での報道によると、

  1. ヒラリー・クリントン候補の私用メール問題に関する大統領選挙中のコミー長官の判断は「重大な誤り」だったとするレターを、ローゼンスタイン司法副長官がセッションズ司法長官に送った。ローゼンスタイン司法副長官は、コミー長官の一連の対応は「検事や捜査官が教科書でしてはならないと教わる典型例」だと批判した。
  2. セッションズ司法長官がこれを受けて、「FBIの指導部は新鮮なスタートが必要だ」と助言するレターをトランプ大統領に送った。
  3. ヒラリー・クリントン氏が5/2、NYの集会で「私が敗北した理由は最後の10日間におきた出来事のせいだ。もし投票が10月27日だったら、私が大統領になっていた」と恨み節を漏らした。
  4. トランプ大統領が5/9、コミー長官解任に踏み切った。

という経緯が伝えられています。

http://www.jiji.com/jc/article?k=2017051000225&g=int

ローゼンスタイン司法副長官(Rod Rosenstein)といえば、トランプ大統領に解任されたサリー・イエーツ司法長官代行(兼司法副長官)の後任として、1月に指名され、4/25に議会承認が下りたばかりの人です。長いことMarylandの連邦地区検事(DA)を務めていましたが、晴れてDOJ副長官に就任して最初の大仕事が「コミーFBI長官を更迭すること」になった(なってしまった)訳です。

ちなみに、前任のイエーツ副長官は、ヒラリー寄りだったリンチ(前)司法長官が去った後、暫定的に司法長官職を代行している僅かな期間のうちに、①イスラム7カ国からの入国を一時的に制限する大統領令の合法性に疑問を呈するメールを司法省内に送付しただけでなく、②トランプ陣営幹部が選挙期間中にロシア政府関係者と接触していた証拠となる電話盗聴記録をリークしたと報じられている人物です。

我が国の官僚であれば、配置転換前に一時的なポストに就任した場合はじっとしてなにもしないのが普通でしょう。また、政治の世界でも、内閣が総辞職した後、次の内閣が成立するまでの間、行政の継続性の観点から職務を執行する「職務執行内閣」というのがありますが、この職務執行内閣では、政務三役は粛々と業務を執行するだけで新しいことはしないというのが通例だと思われます。それに比べると、サリー・イエーツ氏の戦略的な「後足で砂をかける」技は凄いものがありました。

ともあれ、ヒラリーのメール問題に対する捜査を再開させたことで、「結果として」トランプ大統領当選の立役者となったコミーFBI長官ですが、政権発足後も、トランプ陣営幹部が選挙期間中にロシア政府関係者と接触した問題(いわゆるロシアゲート)の捜査を続行し、トランプ政権の悩みの種になっていました。

「このままほっておくとコミー長官がトランプ政権の獅子身中の虫になる」と考えたのかどうか、トランプ大統領がついに長官解任に踏み切った訳ですが、ワシントンでは「司法妨害ではないか」という大きな波紋が広がっています。

ニクソン政権下のウォーターゲート事件における「土曜日の夜の虐殺」の再来だと指摘する声も出ている今回の解任劇について、ウェブサイト「法と経済のジャーナル」(AJ)に論考を連載することになりました。解任理由とされた「ヒラリー元国務長官のメール問題捜査」の検証を皮切りに、ロシアゲートから政治権力と法執行機関の関係まで、いろいろと考えて行きたいと思います。

http://judiciary.asahi.com/fukabori/2017051900003.html

 

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テロ等準備罪(いわゆるconspiracyとしての共謀罪)と司法取引、おとり捜査

テロ等準備罪の議論が国会で行われています。組織犯罪対策において、いわゆるconspiracyとしての「共謀罪」の適用と並んで多いのが、「司法取引」と「おとり捜査」。後者のうち、犯意誘発型は違法とされており、日本ではまだ解禁されていませんが、前者はすでに立法の手当て済みです(施行は来年)。今国会でテロ等準備罪が成立した場合、いずれ焦点となるのは「おとり捜査の全面解禁の可否」となるでしょう。

麻薬取引等の組織犯罪の場合、組織に潜入しつつ協力者を作るというタイプの捜査では、司法取引とおとり捜査はある意味で不可欠の手法です。潜入捜査官の立場は弱く、司法取引・証人保護等の特権を与えないと最終的な協力者を得ることは難しいからです。企業犯罪である営業秘密の窃取の場合もほぼ同様です。

これに対して、外国公務員贈賄罪の場合、一方当事者である収賄側は、現地において実際に公権力を行使する、正統に選出・任命された公務員であることが前提ですので、そこへの潜入というのは想定し難く、また、仮におとり捜査が可能であったとしても、捜査関係者が外国政府の公職を詐称することになる不具合があります。ただし、その場合でも、アルストム事件以降に顕著になってきた贈収賄に関する国際捜査協力体制の下では、賄賂工作が行われる当該外国の捜査機関が協力しておとり捜査が遂行される可能性がないとは言えません。

いずれにせよ、外国公務員贈賄罪の分野で「おとり捜査」が本格化するようになったら、グローバル企業のコンプライアンス確保はまだ一段高い水準を要求されるようになるでしょう。

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外国公務員贈賄罪はテロ等準備罪の対象外。贈賄罪の「国民による国外犯」新設へ

本日(2017/4/6)、衆議院で審議が始まった「組織的犯罪処罰法等改正案」ですが、外国公務員贈賄罪の観点からは、重要な点が二つあります。

一つは、外国公務員贈賄罪が対象外であることです。外国公務員贈賄罪(不正競争防止法18条)は、改正案によって新設される「テロ等準備罪」(いわゆるconspiracyとしての共謀罪)の対象ではありません。

改正案は、団体の中で、結合関係の基礎としての共同目的が「特定の犯罪」を実行することにあるものに限って「組織的犯罪集団」であると規定していますが(6条の2第1項)、その「特定の犯罪」を限定列挙したものが、「別表第三」です。この「別表第三」の中に、外国公務員贈賄罪(不正競争防止法18条)はリストアップされておりません。つまり、前提となる「特定犯罪」から外れているのです。なお、一般の贈収賄罪(日本の公務員に関する贈収賄罪、刑法197〜198条)は別表第三の対象になっています(なお、後述しますが、贈賄罪は別表第四の対象外になっており、テロ等準備罪から外れています)。

また、改正案は、「特定犯罪」の実行を共同の目的とする組織的犯罪集団の活動遂行を2人以上の者が計画した場合(=いわゆるconspiracyのケース)、そのまま犯罪とするのではなく、要件を付加し、「準備行為」がある場合に限って犯罪の成立を認めています(これが今回の改正案の特徴です)。そして更に、犯罪つまり「テロ等準備罪」(いわゆるconspiracyとしての共謀罪)が成立するのは、「準備行為」がある場合全てではなく、「別表第四に掲げる罪」に限定するという構成になっています(6条の2第1項1号および2号)。これが、法案提出準備段階での与党内議論等で焦点となり、今後の国会審議でも中心的テーマの一つになる見込みの「犯罪の絞りこみ」です。

前者の絞り(準備行為要件)はTOC条約上、明文で認められているものであるのに対して(5条1(a)(ⅰ))、後者の絞り(別表形式の採用による絞り込み)は、一見するとTOC条約5条3の要求に反しているようにも思えます。この点については、TOC条約の要求しているのは「組織的な犯罪集団の関与するすべての重大な犯罪」であり、関与のないものは外しても差し支えない(明確化しただけ)というのが現時点での政府解釈だと思われます。そのような解釈が技巧的に過ぎるとする場合でも、主権国家の「裁量」の範囲内での立法と言うこともできるかもしれません。

この別表第四は、基本的には別表第三と同じなのですが、二つの修正が加わっています。第一に、内乱罪や不法入国等の一定の犯罪を除外していること、第二に、証人買収や犯人隠匿や偽証等、刑事司法に関わる一定の犯罪を追加していることです。後者の追加された一定の犯罪はいずれも「本罪」に付加される司法妨害罪的な犯罪等ですので、当然ながら外国公務員贈賄罪は含まれておりません。

したがって、外国公務員贈賄罪はテロ等準備罪(いわゆるconspiracyとしての共謀罪)の対象とならないということになります。

もう一つ重要な点は、一般の「贈賄罪」の国外犯規定が新設されることです。

なお、ここで言う「一般の贈賄罪」というのは、外国公務員贈賄罪とちがって、日本の公務員に対する贈賄罪という意味です(いわば「内国公務員贈賄罪」と言うべきものです。単純贈賄罪(請託がない場合等)とは意味が異なります)。

実は、先ほど説明した別表第四から「除外」された一定の犯罪の中には、内乱罪や不法入国等と並んで、「贈賄罪」(刑法198条)が列挙されています。したがって、一般の贈賄罪は、別表第四の対象外となります。現行刑法の規定では贈賄罪の法定刑は「三年以下の懲役又は二百五十万円以下の罰金」であり、TOC条約でいう「重大な犯罪」に該当しないからです。つまり、一般の贈賄罪は、別表第三には規定されているが、別表第四には規定されていないという扱いになります。

贈賄を実行することを共同の目的として結びついた組織的犯罪集団の活動として、贈賄行為の遂行を2人以上で計画した場合、かつ、不正会計による裏金の捻出や贈賄工作のロジ回りの計画を練る等の「準備行為」があったとしても、別表第四に規定されていない以上、構成要件は充たさないことになります。

つまり、贈賄罪についても、「テロ等準備罪」(いわゆるconspiracyとしての共謀罪)は成立しません。

ちなみに、収賄罪(刑法197条以下)は、別表第四から除外されていませんので、収賄に関わるテロ等準備罪(いわゆるconspiracyとしての共謀罪)は成立し得ることになります。

収賄罪は身分犯で公務員(日本の公務員)が主体ですので、我が国の公務員が関わる「組織的犯罪集団」が結成され共謀があり、かつ収賄の準備行為を行う場合に適用され得る訳ですが、いったいどんなケースが想定されるでしょうか。例えば「某省内にインナーサークルが形成され、組織ぐるみの天下りあっせんで対価をもらう謀議を図っていたら」とか、あるいは、改正案12条によると収賄罪の共謀罪は刑法4条の2の例にならうとされているので、世界主義に基づく国外犯規定が適用されることを考えると、「利害関係者との接触に対する監視の目が緩む国外で行われる収賄の「謀議」が、国際会議終了後に・・・(以下、省略)」といったケースが机上では考えられるかもしれませんが、そうしたインナーサークルあるいは人的集団はそもそも「組織的犯罪集団」にあたらないという解釈ができるかもしれません。

いずれにせよ、単純収賄、事前収賄、事後収賄、あっせん収賄の組織的な「共謀」(+準備行為)を行った場合、それだけで2年以下の懲役又は禁固になります。更に、職務上不正な行為を行う(あるいは相当な行為を行わない)類型である「加重収賄」(刑法197条の3第1項、第2項)は、「一年以上の有期懲役」が法定刑ですので、組織的な共謀(+準備行為)だけで5年以下の懲役又は禁固が科せられることになります。結構、重いですね。

さて、話を本題に戻しますと、贈賄罪が「テロ等準備罪」(いわゆるconspiracyとしての共謀罪)の対象に入らないこととの関係で、刑法の改正案が今回、同時に提出されており、贈賄罪の国外犯(刑法3条)が新設されることになっています。改正案によると、刑法3条に「第百九十八条(贈賄)の罪」が挿入されます(新6号)。したがって、日本国外において、贈賄罪を犯した日本国民に刑法が適用されることになります。

つまり、海外で日本の公務員(内国公務員)に賄賂を贈った日本国民は、贈賄罪に問われることになります。これまでは、海外で賄賂をもらった日本の公務員に対する「収賄罪」は成立していましたが、賄賂を贈った者に刑法の適用はありませんので、「贈賄罪」は成立しませんでした。

これからは、海外で賄賂を贈った者のうち、日本国民に限っては、贈賄罪が成立するということになります。これは、外国公務員贈賄罪に関係する分野では重要な法改正と言えます。

なぜ、そうなったかは、また別の機会に。

(なお、本稿は筆者の個人的な見解であって、属する組織の見解ではありません)

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