トランプ政権とFCPA

トランプ政権の誕生によってFCPAの摘発動向はどう変化するでしょうか。11月の米国大統領選挙以来この関係の質問が相次いでいましたので、現時点での考えをまとめて、「別冊宝島」に寄稿しました。先日発売された『別冊宝島2538 政府高官とFBIが明かす トランプの野望』(宝島社)です。ジョセフ・ナイ、フランシス・フクヤマ、エドワード・スノーデン、川村晃司氏、宮家邦彦氏、大野和基氏といった豪華な顔ぶれによる記事がたいへん面白いので、是非お読みください。

トランプ政権とFCPAを考える上でのポイントは次の通りです。

  1. 新しい司法長官に指名されているのは、アラバマ州選出のジェフ・セッションズ上院議員。セッションズ氏は検事出身で、企業犯罪の摘発自体は推進していくと思われるが、司法長官に抜擢された経緯からするとFCPA摘発積極策を取らない可能性がある。 もともとセッションズ氏は、過去にKKKを肯定的に語り、人種差別主義者として批判を浴びた人物。強硬な不法移民排斥論者で大麻解禁反対論者、つまり共和党最右派の保守派。そのセッションズ氏が司法長官に選ばれたのは、大統領選でいち早くトランプ支持を表明し、選挙戦で外交政策の立案を支えた論功行賞。したがって、セッションズ氏が司法長官になった場合、まず考えられるのが、上司であるトランプ大統領の意向が最大限に反映されるという可能性。
  2. トランプ自身はFCPAの改正派。2012年5月15日、CNBCのSQUAWK NEWS LINEでトランプは、世界最大の小売業者ウォルマート社のメキシコでのFCPA違反事件について、「メキシコや中国で雇用を産み出している企業を摘発するなんて、この国は狂っている。FCPAはhorrible。改正されるべきだ。FCPAのおかげでアメリカのビジネスは大きな損失(huge disadvantage)を被っている」と発言。これはまさにブレジンスキー(カーター政権時代)を思わせる発言。
  3. 国務長官に親ロシア派のティラーソン氏が就任し、ロシアとの融和策が取られる場合、ハードルは下がる=消極化する可能性(プーチン大統領もFCPAの域外適用に批判的だから)
  4. 仮にルドルフ・ジュリアーニ元NY市長が司法長官に選ばれていれば、話は別だった。ジュリアーニ氏はFCPA摘発を推進したミュケイジー元司法長官の同志ともいうべき存在。企業犯罪・不正行為に厳しい姿勢が取られFCPA積極摘発路線が維持される可能性が高かった。
  5. なお、司法省の執行自体が急に変化する訳ではない(司法省の捜査実務を担う幹部が皆、政治任用で交替する訳ではないから)。
  6. 実務的には、2015年9月の司法省「イェーツ・メモ」を受けた、新しい捜査パイロットプログラムが稼働したばかりで、捜査実務の方針は直ちには変わらないだろう。
  7. 従来通りFCPA 摘発を継続する可能性も残っている。例えば、中国対抗策として中国企業による贈賄を摘発する等、実利的な判断からFCPAの戦略的活用が図られる可能性。米国企業保護の見地から日本企業が狙い撃ちされる危険性もある。この場合、FCPA適用の「二重基準」(ダブルスタンダード)が問題視される局面も考えられる。

こんなところです。

いずれにしても、FCPAの摘発動向を考える上で、いっそう「地政学的な視点」を取り入れることが重要になっているということだと思います。

ということで、春から5年目に突入するBERC(=日本の主要企業が参加するコンプライアンスの専門機関)の「外国公務員贈賄罪研究会」は、地政学的リスクの分析に重点を置く方向で運営していきたいと思っています。なお、同研究会に参加したい企業は、BERCに入会することが必要です。詳しくはBERCにお問い合わせください。

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