米国「国防権限法2019」889条とビジネスリスク

2018/8/13、トランプ大統領が新しい「国防権限法案」に署名し、先日逝去したマケイン上院議員の名前がつけられた「H.R.5515 John S. McCain National Defense Authorization Act for Fiscal Year 2019」が成立しました。これは2018/10から始まる2019会計年度の国防予算の大枠を規定する法律(NDAA)で、その総額は7170億ドル(約79兆円)にも達します。

 

 

日本企業にとってのビジネスリスクとして注目されるのが、スマホをはじめとする電子機器の分野で世界を席巻しようとしている「Huawei」や「 ZTE 」という大企業が、米政府内での調達・契約から排除される明文規定が設けられている点です。具体的に見ていきましょう。

SEC. 889. PROHIBITION ON CERTAIN TELECOMMUNICATIONS AND VIDEO SURVEILLANCE SERVICES OR EQUIPMENT.

(a) PROHIBITION ON USE OR PROCUREMENT.—(1) The head of an executive agency may not—

(A) procure or obtain or extend or renew a contract to procure or obtain any equipment, system, or service that uses covered telecommunications equipment or services as a substantial or essential component of any system, or as critical technology as part of any system; or

(B) enter into a contract (or extend or renew a contract) with an entity that uses any equipment, system, or service that uses covered telecommunications equipment or services as a substantial or essential component of any system, or as critical technology as part of any system.

出典:米国議会公式サイト(なお下線・強調は筆者)

この889条(a)(1)(A)によれば、「executive agency」(政府機関)の長が「covered telecommunications equipment or services」を使っている機器・サービスを使ったり契約したりすることが禁止されることになります。さらに、889条(a)(1)(B)は、そうした「covered telecommunications equipment or services」を使っている企業(entity)と契約することも禁止しています。

では、この「covered telecommunications equipment or services」が何かというと、

(3) COVERED TELECOMMUNICATIONS EQUIPMENT OR SERV-
ICES.—The term ‘‘covered telecommunications equipment or services’’ means any of the following:

(A) Telecommunications equipment produced by Huawei Technologies Company or ZTE Corporation (or any subsidiary or affiliate of such entities).

(B) For the purpose of public safety, security of government facilities, physical security surveillance of critical infrastructure, and other national security purposes, video surveillance and telecommunications equipment produced by Hytera Communications Corporation, Hangzhou Hikvision Digital Technology Company, or Dahua Technology Company (or any subsidiary or affiliate of such entities).

と定義されています。つまり、

  1. Huawei Technologies Company
  2. ZTE Corporation
  3. Hytera Communications Corporation
  4. Hangzhou Hikvision Digital Technology Company
  5. Dahua Technology Company

という企業によって製造されている機器・サービスが「covered telecommunications equipment or services」ということになります。具体的な企業名を「もろに名指し」をしている訳です。このうちHuaweiや ZTEを知らない人はいないと思いますが、ハイテラは無線系メーカー、ハイクビジョンとダーファは監視カメラ分野の大手企業で、その分野では知る人ぞ知る存在です。

これら5社の製造する機器や提供するサービス自体が米国政府内での調達・使用を禁じられるだけではなく、それらの製品を使っている他の企業も、いわば間接的に、米国政府との調達契約から排除されるという二段構えになっている訳です。

なぜこの新法が日本企業にとってもビジネスリスクになるのか、お分かり頂けたでしょうか。

とはいえ、

(c) EFFECTIVE DATES.—The prohibition under subsection

(a)(1)(A) shall take effect one year after the date of the enactment of this Act, and the prohibitions under subsections (a)(1)(B) and (b)(1) shall take effect two years after the date of the enactment of this Act.

と効力発生までは猶予があり、(a)(1)(B)の場合は2年後です。それだけでなく「waiver」(免除)条項も規定されていますので、直ちに青ざめる必要はありません。むしろ、米国・オーストラリアに続いて、日本も同様の措置を導入するべきかどうかという現在進行中の国内議論の帰趨に注目することが重要かなと思います。

なお、今回の法規制の対象(主体)となる「executive agency」(政府機関)ですが、具体的には、

  • The Department of State.
  • The Department of the Treasury.
  • The Department of Defense.
  • The Department of Justice.
  • The Department of the Interior.
  • The Department of Agriculture.
  • The Department of Commerce.
  • The Department of Labor.
  • The Department of Health and Human Services.
  • The Department of Housing and Urban Development.
  • The Department of Transportation.
  • The Department of Energy.
  • The Department of Education.
  • The Department of Veterans Affairs.
  • The Department of Homeland Security.
  • The Department of the Army.
  • The Department of the Navy.
  • The Department of the Air Force.
  • The Government Accountability Office.
  • a wholly owned Government corporation fully subject to chapter 91 of title 31.

等と規定されています(41 U.S. Code § 133 – Executive agency)。

Huaweiといえば、2018年3月にポルシェ911 GT3 RSにインスパイアされたスマホ「PORSCHE DESIGN HUAWEI Mate RS」をリリースする等、スマホ製品開発の最先端を行くメーカーです。「Mate RS」が米政府内で見られる日はもう来ないことになるのでしょうか(といってもMate RSは2095€(約28万円)もしますが)。

(なお、今回の発言は個人的見解を表明したものであり、筆者の属する組織の公的見解を代表するものではありません)

 

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週刊エコノミスト「三菱日立合弁、タイ贈賄で初の司法取引」

本日(2018/8/20)発売の週刊エコノミスト(毎日新聞出版)2018年8月28日号に、「三菱日立合弁、タイ贈賄で初の司法取引 「個人に責任転嫁」の裏事情」と題する拙稿を掲載して頂きました。

今回のMHPSタイ外国公務員贈賄罪事件は、我が国における「司法取引」制度適用の第一号になったことで世間の注目を集めた訳ですが、外国公務員贈賄防止の基本に立ち戻り、当時のタイ側政治事情を踏まえた「対応策」の可能性についても言及してみました。お読み頂ければ幸いです。
(なお、当該原稿は個人的見解を表明したものであり、筆者の属する組織の公的見解を代表するものではありません)
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カジノ先駆者の岡田元UE社会長が香港で逮捕

2018/7/20、カジノ実施法(IR整備法:特定複合観光施設区域整備法)が参議院本会議で自民・公明・日本維新の会の賛成多数によって可決、成立しました。入場料6000円、入場制限28日間で10回といったギャンブル依存症対策も講じられた上で、いよいよ国内で最大3箇所となるカジノ(IR)開業に向けた準備が本格化しようとした矢先に、驚きのニュースが伝わってきました。

日本のカジノ業界の先駆者である、ユニバーサル・エンターテインメント(UE)社創業者で元会長の岡田和生氏が、香港で逮捕されていたとのことです。

香港のタブロイド紙「頭條日報」2018/8/1(電子版)によると、岡田元会長は2018/7/30(月)、香港の廉政公署(汚職対策独立委員会:ICAC, Independent Commission Against Corruption)に出頭し、Okada Holdingsの1.35億元の財産「詐取」の共謀へ関与した疑いで逮捕されたとのことです。

 

http://hd.stheadline.com/news/daily/hk/689260/

UE社は本日(2018/8/6)付でさっそく次のようなプレスリリースを発表しています。

平成 30 年 8 月 6 日
会 社 名 株式会社ユニバーサルエンターテインメント
代表者名 代表取締役社長 富士本 淳
(JASDAQ・コード 6425) 問合せ先 経営企画室 広報・IR 課
電話番号 03-5530-3055(代表)
当社元取締役会長岡田和生氏の逮捕について

当社は、本日下記の情報を入手いたしましたのでお知らせいたします。

香港 ICAC(※)に問い合わせたところ、以下の事が分かりました。

(1)当社の元取締役会長岡田和生氏(以下、「岡田氏」という。)は、複数の賄賂に関する容疑・罪状で ICAC に逮捕されました。

(2)岡田氏は、現在、ICAC の管理の下に保釈中です。
なお、岡田氏は 2017 年 6 月 29 日付けで当社取締役を退任済みであり、当社とは一切関係はございませんが、当社といたしましては、ICAC ならびに他の捜査当局から協力要請等があれば全面的に協力する所存です。

また、当社事業への影響(カジノ関連事業のライセンスの取得・維持にあたっては、経営者及び株主 が規制当局であるゲーミング委員会による厳格な適格性審査を受ける必要があり、経営者又は株主に不 適格者が存在する場合には、ライセンスの取得が認められないか、又は事後に保有するライセンスが失 効するおそれがあります。)も含めて、開示が必要な事項が発生した場合には、速やかにお知らせいたし ます。

以上

※香港 ICAC とは、Hong Kong Independent Commission Against Corruption の頭文字を取った略称 であり、香港の警察組織とは独立した捜査機関です。

 

http://www.universal-777.com/corporate/news/pdf/2018/IR_20180806.pdf

ちなみに香港のICACは、腐敗していた警察組織等の公務員汚職を取り締まるために1974年に設立された汚職取締機関で、多くのOB/OGが不正検査やコンプライアンスの分野で活躍しています。

今回の岡田元会長逮捕の詳細はまだ不明です。公務員への賄賂に関係しているのでしょうか、それとも会社財産に関する「背任」に相当する嫌疑を追求されているのでしょうか。

岡田氏が待ち望んだであろう日本でのカジノ解禁前夜、突然の逮捕です。UE(旧アルゼ)社の先駆的なラスベガス進出、スティーブ・ウィン氏との邂逅とマカオでの成功、マニラ進出とウィン氏との衝突、会社からの追放劇と家族間の人間模様。いま岡田氏は何を考えているのでしょうか。

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今朝の日経

今朝(2018/7/21)の日経朝刊社会面に、今回の事件に関する拙コメントが載りました。

海外贈賄に関する著書のある経営倫理実践研究センターの北島純・主任研究員は「米司法省は近年、企業犯罪捜査で法人を免責して幹部ら個人の刑事責任を追及する方法が、真相究明と再発防止に有効と位置づけている」と指摘。「今回の事件も米国のスタンダードに沿った捜査だ」と話す。

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO33220940Q8A720C1CC1000/

取材で申し上げたのは、「今回の摘発・司法取引は、腐敗防止・外国公務員贈賄摘発の国際潮流から見れば、スタンダードなものであり(トカゲの尻尾切りという批判は、その気持ちは分かるが、的外れでもある)、米国でもそういった捜査プログラムが動いているよ」というものでしたが、概ねうまくまとめて頂いたような感がします。

それにしても、今回の司法取引に関する報道は、読売新聞のスクープから始まった訳ですが、日経はその後の追い上げがすごいですね(ちなみに、個人情報保護からEPAに至るまで、ここ1〜2週間の日経記事は爆発的な勢いを感じます)。

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三菱日立パワーシステムズ外国公務員贈賄罪事件で3人を起訴、法人は不起訴

本日(2018/7/20)、東京地検特捜部が三菱日立パワーシステムズ(MHPS)の役員・社員ら3人を在宅起訴、法人は不起訴(起訴猶予)になりました。我が国で初めて「司法取引」(合意制度)が適用された事件が、今回のタイ南部カノム発電所事業にかかわる外国公務員贈賄罪事件になった訳です。

起訴された3人は、

  1. 元取締役常務執行役員兼エンジニアリング本部長 U氏(64)
  2. 元執行役員兼調達総括部長 N氏(62)
  3. 元調達総括部ロジスティクス部長 T氏(56)

つまり、本社サイドのプロジェクト責任者・調達責任者のラインが立件され、タイで贈賄工作を実施した担当社員の起訴は見送られた模様です。

これまでの報道では、MHPSが払った賄賂は「約6000万円」ということでしたが、起訴ではそのうちタイ運輸省港湾局支局長に現地の輸送業者を通じて支払われたことが裏付けられた「約3900万円」分が賄賂額として認定されたということです。

起訴を受けて、MHPSがプレスリリースを発表しています。

https://www.mhps.com/jp/news/20180720.html

 

不正競争防止法違反による当社元役員および元社員の起訴について

2018年7月20日発行 第221号
過日より一部報道にあります当社(三菱日立パワーシステムズ(株):MHPS)関係者によるタイ公務員に対する贈賄疑惑に関し、本日、当社の元役員2名(元取締役常務執行役員エンジニアリング本部長、元執行役員調達総括部長)および元ロジスティクス部長1名が、不正競争防止法違反(外国公務員への贈賄)容疑で起訴されたとの情報に接しましたので、下記の通りお知らせいたします。当社では以前から法令遵守のための諸施策を講じてまいりましたが、今回、このような事態に至りましたことは誠に遺憾であり、お客様をはじめ、皆さまに多大なご迷惑とご心配をお掛けしておりますことについて深くお詫び申し上げます。当社では、今回の事態を厳粛に受け止め、今後、役員・社員一同、さらなるコンプライアンスの徹底をはかるとともに、再発防止と信頼回復に努めてまいります。

1.事案の概要
タイ王国ナコンシタマラート県カノム郡において当社が請け負っていた火力発電所の建設工事をめぐり、2015年2月、当社が建設資材の海上輸送を依頼していた物流業者の下請け輸送業者が、発電所の建設現場近くに設置された桟橋に資材を荷揚げしようとしたところ、地元港湾当局の公務員と思われる人物を含む地元関係者らにより桟橋を封鎖された上、2,000万バーツの金銭を支払うよう要求された旨、当社の資材運輸部門の担当者に連絡がありました。
当社が依頼していた物流業者が、桟橋使用許認可取得手続きを適切に実施していなかったという予期せぬ事象により封鎖されたものであり、これにより資材の荷揚げが遅れた場合、発電所の建設遅延が発生し、当社が多額の遅延損害金等を支払う義務が生じることが見込まれたことから、これを回避する目的で、当社関係者は、要求に応じるべく2,000万バーツを輸送業者に交付し、桟橋の封鎖を解除させました。
なお、実際に、輸送業者により2,000万バーツが公務員等に交付されたかまでは当社では確認していません。
これらの一連の経緯に、当時の当社関係者が関与し、同国の建設業者へ架空工事を追加発注することにより、2,000万バーツが捻出されました。
2.事案発覚後の当社の対応
2015年3月、当社は内部通報によりタイでの公務員への不正な金銭の支払いの疑いについて把握しました。当社は直ちに社内調査に着手した上で、同月、さらに詳細な調査を実施するため、外部の法律事務所に依頼し、弁護士らによる関係者へのヒヤリングや関係資料の収集等を行いました。その結果、法令違反が疑われたことから、同年6月、東京地方検察庁に報告書を提出しました。
3.協議・合意制度への対応
当社が違反事実を報告したのは、協議・合意制度のない2015年でありますが、当社は、その後約3年間にわたり、東京地方検察庁による本件の捜査に全面的に協力してきました。このような姿勢を検察当局からは評価いただき、本年6月、協議・合意制度の本件への適用についてご提案がありました。
当社は、協議・合意制度を適用しなかったとしても、今回起訴された3名の処分は変わらないとの理解の下、本件の全容解明への協力が必要と考え、協議・合意制度に基づき検察官と合意しました。
当社としては、今回、協議・合意制度に応じたことについては、不正行為に関与していない多くの社員を含め、当社のステークホルダーの利益を守るために必要かつ合理的な判断であったと考えています。
4.再発防止策
上記2.項に記載の社内調査の結果、当社におけるコンプライアンスのさらなる徹底およびコンプライアンスチェック機能のさらなる強化により再発防止を図る必要があると判断したことから、現在、以下の施策を推進しています。
贈賄防止に関し経営トップによるメッセージ発信
投書窓口の通報手段の多様化(ウェブ窓口、フリーダイヤル窓口の追加)
受注前・受注後の贈賄リスクチェックの徹底
海外建設現地における出金に関する監査強化
管理職全員からコンプライアンス誓約書の再取得
外部講師等による贈賄防止教育の実施
5.処分
不正な金銭の支払いに関与した当時の関係者について、2016年2月に社内処分を実施したほか、経営の責任を明確化するため、2015年2月当時の社長、営業担当役員、コンプライアンス担当役員は、以下の通り報酬を返上しています。
社長 : 報酬の30%を3か月返上
副社長(営業担当役員): 報酬の20%を3か月返上
営業戦略本部長(営業担当役員): 報酬の20%を3か月返上
経営総括部長(コンプライアンス担当役員): 報酬の10%を3か月返上

これまで報道されていなかった「桟橋の封鎖」の原因が「当社が依頼していた物流業者が、桟橋使用許認可取得手続きを適切に実施していなかった」こと、そして、それが会社として「予期せぬ事象」であったこと、「実際に、輸送業者により2,000万バーツが公務員等に交付されたかまでは当社では確認」していなかったという、第三者を通じた外国公務員贈賄罪(典型ケース)での認識可能性の問題、端緒が「内部通報」であったこと等、正直に会社側事情が記載されています。また、再発防止策と並んで、社長報酬30%減額3ヶ月等の社内処分の内容も説明しており、用意周到であるが、誠実な印象を与えています。

こうした外国公務員贈賄罪事件におけるプレスリリースとしては、適切なものであると評価できるのではないでしょうか。

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三菱日立パワーシステムズ(MHPS)、タイでの外国公務員贈賄罪事件で日本初の司法取引へ

今朝(2018/7/14)の読売新聞が、「初の司法取引、海外贈賄」というスクープを放っています。読売新聞の記事によれば、

  1. タイの発電所建設事業で三菱日立パワーシステムズ(MHPS)の担当社員が、資材を陸揚げする際に「桟橋の使用料」名目で現地の公務員から賄賂を要求され、2015年2月、約6000万円を支払った。
  2. 会社(MHPS)は内部告発で不正を把握。2015年、東京地検特捜部に自主申告した。
  3. 東京地検特捜部とMHPSは2018年6月、司法取引の協議を開始。合意内容書面双方に署名。
  4. 東京地検特捜部は、贈賄を行なった担当社員らの刑事責任を追求する一方で、MHPSの法人起訴は見送る見通し。

とのことです。

https://www.yomiuri.co.jp/national/20180714-OYT1T50005.html

 

外国公務員贈賄罪の摘発としては、2011年の住友商事インドネシア事件(送検済)を含めると6件目(起訴案件としては5件目)、そして、刑事訴訟法改正によって導入され、この6月から施行されている「司法取引」(合意制度:刑訴法350条の2〜28等)が適用される案件としては我が国初の事例ということになります。

MHPSといえば、三菱重工と日立製作所の火力電力部門が統合して出来た合弁会社。火力発電事業の分野では我が国を代表する企業ですが、南アフリカ政権与党のフロント企業に対する利益供与がFCPAに違反するとして2015/9/28、日立製作所がSEC(米国証券取引委員会)との間で1900万ドル(約23億円)の制裁金を払う合意を交わした事件が記憶に新しいところです。今回のタイ事業はもともと2013年に三菱重工が受注したものとはいえ、同じ発電所事業でSECの捜査に対応していたであろう2015年にタイで贈賄工作を行なっていたとは、なんとも深刻な事態だったと言えるでしょう。

今回の司法取引が、社員の個人責任追求に企業として協力し、その代わりに法人責任を免責してもらえるというものであるとすれば、「企業トップらによる不正を部下らに供述させ、組織ぐるみの犯罪を摘発することが想定されている」制度の「趣旨に反するようにみえる」という読売新聞の解説(社会部板倉拓也記者)はなるほど鋭い指摘だと思えます。

この点について、外国公務員贈賄罪の観点から言うと、今回の事件処理は、米国で2015年9月に公表された「イェーツ・メモ」(Individual Accountability for Corporate Wrongdoing)に親近性を持つ側面があると言えます。イェーツ・メモは、今となっては既に懐かしい元DOJ司法長官補のSally Quillian Yates氏の名前で公表されたFCPAの捜査指針。外国公務員贈賄における企業役職員の「個人責任」追求を重視した捜査を行い、企業が捜査に協力し、個人責任の特定に貢献すれば、企業に対する量刑を減免したり、あるいは訴追を免除したりするというものです(ちなみにサリー氏はその後トランプ大統領によって更迭され、「イェーツ・メモ」はサリー氏が残した置き土産になりました)。

2016年5月24日に成立した改正刑訴法は、合意制度(司法取引)のみならず、取調可視化、刑事免責、通信傍受等の導入・改正を含んでいますが、我が国の刑事処分手続の今後を大きく変えると期待されていたものです。その中の目玉政策である「司法取引」が、「法人免責・個人追求」の類型で、しかも「外国公務員贈賄罪」の事件でスタートするということに大きな注目が集まりそうです。

 

 

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ソシエテジェネラル、FCPA違反で640億円の罰金

仏銀ソシエテジェネラル(Société Générale)と子会社SGA Société Générale Acceptance N.V.は4日、カダフィ時代のリビアにおける贈賄で、米仏当局に $585 million(約640億円) を払うことで合意したとのことです。

ソシエテは、2004年から2009年にかけて、リビアでの投資案件に絡むマージン計$90 millionをリビア人ブローカーに支払い、その一部がリビア政府高官に渡ったとのこと、つまりIntermediaryを介在させた外国公務員贈賄罪ということです。

他に、LIBOR(London InterBank Offered Rate )操作の件で$275 million、さらにCFTC(Commodity Futures Trading Commission )に対しても$475 millionを払うということで、今回ソシエテジェネラルに科せられる罰金額の合計は$1.335 billion (約1460億円)に達します。

 

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パナソニック子会社の不正会計 「310億円制裁金」の深層

本日(2018/6/4)発売のエコノミストに、「パナソニック子会社の不正会計 「310億円制裁金」の深層  日本を代表する大企業グループ内で起きた不正取引は、海外子会社の内部統制の難しさを浮き彫りにした」というタイトルの拙稿が掲載されました。

これは、パナソニックと子会社であるパナソニックアビオニクス社が4月にFCPAや証券取引所法違反で2.8億ドルの制裁金(不当利得吐き出し金)を払った事件について、特になぜDOJが会計条項を適用したかという点に焦点をあてて分析したものです。

お読み頂ければ幸いです。なお、当該論文は個人的見解を表明したものであり、筆者の属する組織の公的見解を代表するものではありません。

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パナソニック、FCPA違反で310億円支払い合意

2018/4/30、パナソニックと子会社「パナソニックアビオニクス」(PAC)は、米国証券取引委員会(SEC)と司法省(DOJ)との間で、航空機用AVシステムの納入に関するFCPA違反に対して、2億8060万ドル(約310億円)の制裁金を払うことを合意したと報じられました。

5/1、パナソニック本社が発表したプレスリリースは以下の通りです。

当社および当社米国子会社であるパナソニック アビオニクス株式会社(以下、PAC)は、米国証券取引委員会(以下、SEC)および米国司法省(以下、DOJ)と、PACの事業に対する調査に関して合意に至りました。本調査については、2017年2月2日付リリースでお知らせしています。

PACは、DOJおよびSECから、連邦海外腐敗行為防止法およびその他の米国証券関連法に基づき、航空会社との特定の取引およびその取引に関連するエージェントやコンサルタントの起用に関する活動について調査を受けていました。

当社およびPACは、上記の合意に基づき、米国政府に対し合計280,602,830.93米ドルを支払います。なお、今回の制裁金の支払いによる2017年度の連結業績予想への影響は、2017年度第3四半期までに引当て済みのため、重要なものではありません。

PACは、第三者によるコンプライアンスに関するモニタリングを今後2年間受け、その後、さらに1年間、コンプライアンスに関する自主報告をDOJに対して行うことで合意しました。それに加え、当社は、PACの企業風土の改革に向け、幅広いコンプライアンスおよび内部統制の強化を監督します。これらの措置には、PAC経営陣の刷新および第三者のエージェントやコンサルタント起用の削減や管理強化が含まれています。

当社は、この度の事態を真摯に受け止め、グループ内のコンプライアンス意識を高めると共に、グローバルに子会社への監督を強化して参ります。

https://news.panasonic.com/jp/topics/20180501.html

このパナソニックのFCPA違反事案は、かねてより捜査の対象となっていたもので、今回、ようやく決着がついたことになります。日本を代表する名門大企業が関わるFCPA違反事件として、約310億円に達する「罰金」の巨額さと相まって、大きな社会的反響を呼ぶでしょう。しかし、そうであるならば、プレスリリースの内容が通り一遍に過ぎないか、捜査が始まった時期ならいざ知らず、トランプ政権下で「通商の不公正」是正が主要政策となっている現在の状況で適切な情報開示と言えるか、議論を呼びそうです。少なくともこの事件を今回初めて知った人にとっては、これだけでは何がなんだかわからない内容の薄さでありますし、また、かねてから注目してきた人々にとっては、何だか他人事のように読める文面となっていることは否めません。

いずれにしても、このパナソニックFCPA事件は、次回の外国公務員贈賄罪研究会で集中的に検討・議論していきたいと思います。

 

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外国公務員贈賄罪が司法取引の対象に(政令第51号)

2018/3/22、司法取引(合意制度)の施行日が2018/6/1と定められる(政令第50号)とともに、司法取引の対象となる経済犯罪を新たに規定する政令(第51号)が公布されました。

2016/5/24に成立した改正刑事訴訟法は、司法取引(合意制度)の対象となる「特定犯罪」として、贈収賄/詐欺/背任/恐喝/横領/文書偽造/公正証書原本不実記載/偽造公文書行使罪等の「刑法上の一定の犯罪」や、「組織的犯罪処罰法」上の犯罪、「薬物・銃器犯罪」、証拠隠滅等の「司法妨害罪」を列挙する他に、「租税に関する法律、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二十二年法律第五十四号)又は金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号)の罪その他の財政経済関係犯罪として政令で定めるもの」を規定していました(刑訴法350条の2第2項3号)。

つまり、「財政経済関係犯罪」としては、租税法・金商法・独禁法が例示されるにとどまり、それ以外のいかなる犯罪が司法取引の対象となるかは「政令」で定めるように委ねられていたわけです。

今回の政令第51号は、その経済犯罪を具体的に定めたものです。特筆すべきは、刑訴法段階では明記されていなかった「外国公務員贈賄罪」(不正競争防止法18条)が、今回の政令で明示されたこと。つまり、外国公務員贈賄罪は司法取引の対象犯罪になることが明らかになりました。

外国公務員贈賄罪以外にも、会社法上の「取締役等贈収賄罪」やみなし公務員等の贈収賄罪も対象となる他、金商法のインサイダー取引・有価証券届出書等虚偽記載や、外国為替及び外国貿易法上の安全保障貿易管理にかかわる犯罪も司法取引の対象となることが判明しました。

企業犯罪のほぼ全領域といってもよい広範囲の犯罪が司法取引の対象となることになった訳で、ビジネスリスク管理の観点からは、司法取引の蓋然性はあらゆる側面で無視し得なくなったと言っても過言ではないと思われます。

 

政令第五十一号
刑事訴訟法第三百五十条の二第二項第三号の罪を定める政令
内閣は、刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)第三百五十条の二第二項第三号の規定に基づき、この政令を制定する。
刑事訴訟法第三百五十条の二第二項第三号の財政経済関係犯罪として政令で定める罪は、第一号から第四十八号までに掲げる法律の罪又は第四十九号に掲げる罪とする。

一  租税に関する法律
二  金融機関の信託業務の兼営等に関する法律(昭和十八年法律第四十三号)
三  私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二十二年法律第五十四号)
四  農業協同組合法(昭和二十二年法律第百三十二号)
五  金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号)
六  消費生活協同組合法(昭和二十三年法律第二百号)
七  水産業協同組合法(昭和二十三年法律第二百四十二号)
八  中小企業等協同組合法(昭和二十四年法律第百八十一号)
九  協同組合による金融事業に関する法律(昭和二十四年法律第百八十三号)
十  外国為替及び外国貿易法(昭和二十四年法律第二百二十八号)
十一 商品先物取引法(昭和二十五年法律第二百三十九号)
十二 投資信託及び投資法人に関する法律(昭和二十六年法律第百九十八号)
十三 信用金庫法(昭和二十六年法律第二百三十八号)
十四 長期信用銀行法(昭和二十七年法律第百八十七号)
十五 労働金庫法(昭和二十八年法律第二百二十七号)
十六 出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(昭和二十九年法律第百九十五号)
十七 補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(昭和三十年法律第百七十九号)
十八 預金等に係る不当契約の取締に関する法律(昭和三十二年法律第百三十六号)
十九  特許法(昭和三十四年法律第百二十一号)
二十  実用新案法(昭和三十四年法律第百二十三号)
二十一 意匠法(昭和三十四年法律第百二十五号)
二十二 商標法(昭和三十四年法律第百二十七号)
二十三 金融機関の合併及び転換に関する法律(昭和四十三年法律第八十六号)
二十四 著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)
二十五 特定商取引に関する法律(昭和五十一年法律第五十七号)
二十六 銀行法(昭和五十六年法律第五十九号)
二十七 貸金業法(昭和五十八年法律第三十二号)
二十八 半導体集積回路の回路配置に関する法律(昭和六十年法律第四十三号)
二十九 特定商品等の預託等取引契約に関する法律(昭和六十一年法律第六十二号)
三十  不正競争防止法(平成五年法律第四十七号)
三十一 不動産特定共同事業法(平成六年法律第七十七号)
三十二 保険業法(平成七年法律第百五号)
三十三 金融機関等の更生手続の特例等に関する法律(平成八年法律第九十五号)
三十四 種苗法(平成十年法律第八十三号)
三十五 資産の流動化に関する法律(平成十年法律第百五号)
三十六 債権管理回収業に関する特別措置法(平成十年法律第百二十六号)
三十七 民事再生法(平成十一年法律第二百二十五号)
三十八 外国倒産処理手続の承認援助に関する法律(平成十二年法律第百二十九号)
三十九 公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律(平成十二年法律第百三十号)
四十  農林中央金庫法(平成十三年法律第九十三号)
四十一 入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律(平成十四年法律第百一号)
四十二 会社更生法(平成十四年法律第百五十四号)
四十三 破産法(平成十六年法律第七十五号)
四十四 信託業法(平成十六年法律第百五十四号)
四十五 会社法(平成十七年法律第八十六号)
四十六 犯罪による収益の移転防止に関する法律(平成十九年法律第二十二号)
四十七 株式会社商工組合中央金庫法(平成十九年法律第七十四号)
四十八 資金決済に関する法律(平成二十一年法律第五十九号)
四十九 前各号に掲げる法律の罪のほか、次に掲げる罪(刑法(明治四十年法律第四十五号)の罪を除く。)
イ 賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をした罪
ロ 賄賂を収受させ、若しくは供与させ、又はその供与の要求若しくは約束をした罪
ハ 不正の請託を受けて、財産上の利益を収受し、又はその要求若しくは約束をした罪
ニ イからハまでに掲げる罪に係る賄賂又は利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をした罪
ホ 任務に背く行為をし、他人に財産上の損害を加えた罪又はその未遂罪

附則
この政令は、刑事訴訟法等の一部を改正する法律(平成二十八年法律第五十四号)附則第一条第四号に掲げる規定の施行の日(平成三十年六月一日)から施行する。

法務大臣 上川陽子
内閣総理大臣 安倍晋三

 

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2018年の腐敗防止、司法取引と中国の改正不正競争防止法施行

2018年(平成30年)になりました。明けましておめでとうございます。本年も宜しくお願い申し上げます。

昨年2017年は、FCPA制定40周年、OECD外国公務員贈賄防止条約締結20週年という記念すべき年でしたが、残念ながら、ロールスロイス事件やテリア事件といったFCPA巨額罰金事件の摘発が相次ぎ、オデブレヒト事件も引き続き中南米の政界を揺さぶっています。草葉の陰でFCPAの父プロクシマイヤー氏も悲しんでいることでしょう。

しかし、OECDが2017/12/12に開催した記念シンポジウムでも語られたように、外国公務員贈賄罪を中心とする腐敗をいかに防止するかという取り組みは今後もいっそう強化されていき、その流れは止まらないものと思われます。

そこで、腐敗防止という観点から、2018年に注目すべき点を幾つか列挙したいと思います。

まず日本では何と言っても、贈収賄罪にかかわる「司法取引」が導入される点です。これは、2016/5/24に第190回国会で成立した「刑事訴訟法改正案」(第189回国会閣法第42号)によって導入された刑事司法制度ですが、いよいよ運用が開始されます(2016/6/3に公布された改正法(法律第54号)の当該箇所は3年以内に「施行」されることになっています)。内容的なポイントは以下の通りです。

  1. 組織的犯罪・経済犯罪の「上位者・背後者」を解明するため、「合意制度」が新設される(改正刑訴法350条の2~28等)。
  2. 被疑者・被告人が、他人の刑事事件について、①取調・証人尋問における真実の供述、②証拠提出その他の協力をすることを検察官と「合意」した場合、検察官は、①不起訴、②公訴取消、③特定訴因・罰条での公訴提起、④即決裁判申立て、⑤略式命令請求することが出来る。
  3. 司法取引の対象となる「他人の刑事事件」は、贈収賄/詐欺/背任/恐喝/横領/ 文書偽造/公正証書原本不実記載/偽造公文書行使や、租税法/金融商品取引法/独禁法/財政経済犯罪/薬物犯等という組織的犯罪・経済犯罪に限定される(「特定犯罪」)。
  4. 弁護人の同意が必要、合意内容書面の取調べ請求義務があり、虚偽供述・偽造証拠提出は5年以下の懲役が科せられる。

といったものです。つまり、アメリカで一般的な自己負罪型ではなく、「捜査・公判協力型」の司法取引という訳です。

企業コンプライアンスとしては独禁法との関連が最重要領域となるでしょうが、贈収賄を中心とする腐敗防止の観点からは、日本でも司法取引が導入されることの意義はとても大きいものになると考えられます。特に内部通報制度の運用や「社内リニエンシー」制度の構築にあたっては、将来的に司法取引制度に乗ることの可能性を考慮した再設計が必要となるでしょう。

次に、中国の不正競争防止法が改正され、2018/1/1から施行される点です。これは、2017年11月4日に第12期全国人民代表大会常務委員会第30回会議で可決、公布された法改正によって、商業賄賂(民民贈収賄)の行政法的規制が強化されるといものです。詳細は12月のBERC外国公務員贈賄罪研究会で検討しましたが、ポイントは、取引に「影響力を及ぼす個人」をどう把握していくかという点です。内容を見てみましょう。

第7条  経営者は、金品その他の手段を用いて次の各号に掲げる企業・組織や個人に贈賄して、取引の機会や競争における優位の獲得を図ってはならない。

(1)取引相手の従業員
(2)取引相手からの委託を受けて関連事務を行う企業・組織または個人
(3)職権または影響力を利用して取引に影響を及ぼす企業・組織または個人

経営者は、取引活動において、明示の方法をもって取引相手に支払いの割引を与えるか、仲介人に対して手数料を支払うことができる。経営者は、取引相手に支払いの割引を与えるか、仲介人に対して手数料を支払う場合には、真実のとおり記帳するものとする。割引または手数料を収受した経営者は、真実のとおり記帳しなければならない。

経営者の従業員が贈賄した場合は、それを経営者の行為と認定する。ただし、経営者が証拠をもって、当該従業員の行為は、経営者のために商機または競争上の優位を獲得することと無関係であることを証明した場合は、この限りでない。

第19条  経営者が本法第7条の規定に違反して他人への贈賄を行った場合、監督監査機関は違法所得を没収し、10万元以上300万元以下の罰金を科す。事案が重大である場合は、営業許可証を取り消す。

出典:JETRO北京事務所「不正競争防止法新旧法対照表」(2017.11)

この該当条文のうち、下線を引いた「職権または影響力を利用して取引に影響を及ぼす企業・組織または個人」という贈賄対象者の第三類型が、問題です。

「取引先の従業員」や「業務委託を受けている会社・個人」ならば、(ある程度)客観的に把握することが可能ですが、「影響力を及ぼす個人」となると、その外延は甚だ不明確になります。取引先社長(総経理)の配偶者なのか、子弟なのか。中国ビジネスで不正競争防止法を遵守するために、いったいどの程度までコストをかけて取引先DDをすれば良いのか、今後の中国ビジネスにおける焦点になりそうです。

最後に、国連グローバル・コンパクトが第10原則で謳っている「腐敗防止」について、東京を舞台として新しい動きがありそうです。腐敗防止強化の動きは世界中で様々なレベルで展開されていますが、その一つの動きとして、要注目です。

BERCの外国公務員贈賄罪研究会では引き続き、FCPAやUKBAといった外国公務員贈賄罪を筆頭に、世界の腐敗防止制度の研究を深めていくとともに、日々刻々と変わっていく地政学的リスクの分析を進めていきたいと思います。

 

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ロシア、平昌冬季五輪から排除

2017/12/5、IOC (国際オリンピック委員会)はスイス・ローザンヌで開いた理事会で、ソチ冬季五輪におけるロシアのドーピング組織的不正(systemic manipulation of the anti-doping rules and system)を認定し、ロシアオリンピック委員会(ROC)を資格停止、2018/2の平昌(ピョンチャン)冬季五輪からロシア選手団を排除することを決定しました。

その他、ROCのジューコフ会長のIOC委員資格の停止、スポーツ大臣だったヴィタリー・ムトコ現ロシア副首相の永久追放、調査費用1500万ドル(約17億円)の負担要求も決まりました。

https://www.olympic.org/news/ioc-suspends-russian-noc-and-creates-a-path-for-clean-individual-athletes-to-compete-in-pyeongchang-2018-under-the-olympic-flag

ドーピングに関わっていない選手は個人として、五輪旗の下で参加できるという救済策は用意されていますが、祖国の国歌・国旗の下で競技に臨む道が絶たれた訳で、厳しい処分となりました。

その背景には、バッハIOC会長の言葉にあるように、今回のロシアによるドーピングは「オリンピックとスポーツのインテグリティに対する前代未聞の攻撃(unprecedented attack on the integrity of the Olympic Games and sport)」であり、これを看過したら「オリンピック・スポーツの価値が崩壊してしまう」という、強い危機感があったことがあると考えられます。

今回の処分の根拠となった「Report of the Schmid Commission」は、リオ五輪前のWADA報告書の発展版ともいえるもの。少なくともリオ五輪時に騒がれたドーピング問題は(招致贈賄疑惑と並んで、日本では終わった話題のような扱いになっていましたが)、幕引きになっていた訳ではないということが明らかになりました。

オリンピックにおけるドーピングの問題とキー概念である「インテグリティ」については、一部ですが、昨年のリオ五輪開催時に講談社「現代ビジネス」で書かせて頂きましたので、それをお読みいただければと思います(プレミアム会員限定になっているようなので、これを機に入会してみてください)。

『「オペレーション・アウゲイアス」リオ五輪の水面下で進められる、ドーピング壊滅作戦の実態  「五輪と薬物」通史』

いずれにせよ、大国ロシアを排除する今回のIOC決定は大きな波紋を広げそうです。

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週刊エコノミスト「サウジ皇太子が掲げる聖域なき摘発、日本企業進出の窓口一新も」

ムハンマド皇太子の主導する腐敗摘発は今後どうなるのか、日本企業へはどう影響するのか。

これらの点について、本日発売の「週刊エコノミスト2017年12月12日号」に、「サウジ皇太子が掲げる聖域なき摘発、日本企業進出の窓口一新も」というレポートを寄稿させて頂きました。巻頭部の14-15 頁です。

お読みいただければ幸いです

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「腐敗のゼロ・トレランス摘発」という最強カード

今回のサウジアラビアの粛清では、「腐敗摘発」という大義名分が使われている点が注目されます。

権力闘争の手段として「腐敗の摘発」を利用するというのは、現代では、中国やベトナムといった社会主義国のお家芸となっており、例えば中国では習近平総書記(国家主席)が、盟友である王岐山が率いる「共産党中央規律検査委員会」を駆使して、周永康、薄煕来、令計画、郭伯雄、徐才厚らの大物政敵を次々と収賄罪等の嫌疑をかけて追い落とし、権力の基盤固めに成功しています。

また、ベトナムでも同様に、最高権力者グエン・フー・チョン書記長が、失脚したズン前首相に連なる経済人脈を汚職の嫌疑で摘発しています(詳細は、エコノミスト2017年10月17日号をお読みください)。

それは、腐敗の摘発が政治的な意味で、誰しもが正面からは反対できない現代の「最強のカード」だからです。

これまでに習近平総書記とチョン書記長、サルマン国王と習近平総書記との間で、首脳会談が実施されておりますが、少なくとも前者では腐敗摘発というカードについて話し合いがなされたと報道されています。

このカードが、サウジアラビアで使われた、しかも「ゼロ・トレランス」で。これこそが、今回の粛清が世界に衝撃を与えた理由の一つだと考えられます。

ゼロ・トレランス(zero tolerance)とは「聖域なき取り締まり」を行うということ。実は、ムハンマド副皇太子が提唱したVision2030 には腐敗防止が組み込まれていました。

Embracing transparency

We shall have zero tolerance for all levels of corruption, whether administrative or financial. We will adopt leading international standards and administrative practices, helping us reach the highest levels of transparency and governance in all sectors. We will set and uphold high standards of accountability. Our goals, plans and performance indicators will be published so that progress and delivery can be publicly monitored. Transparency will be boosted and delays reduced by expanding online services and improving their governance standards, with the aim of becoming a global leader in e-government.

http://vision2030.gov.sa/en/node/106

「Embracing transparency」つまり透明性の確保という段落で、「管理部門から財政部門まで、あらゆるレベルの腐敗に対してゼロ・トレランスで望まなくてはならない」と明言されていたのです。

反撃を許すことなく有力者を一斉に拘束し、高級ホテル「リッツ・カールトン」に幽閉することに成功した今回の粛清劇は、その手際の良さからみても、周到に用意されていたものだったに違いありません。そして、Vision2030に忍び込んでいた腐敗撲滅のゼロ・トレランス宣言は、今回の粛清の布石だった可能があると考えられます。

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サウジ粛清の背景

今回の粛清劇で、なぜ重臣の一斉拘束という強硬策が取られたのでしょうか。

2015年1月にアブドラ前国王が逝去し、サルマン現国王(King Salman bin Abdulaziz Al Saud)が王位を継承して僅か3ヶ月後、当時国防相だった七男ムハンマド氏(Mohammed bin Salman(通称MbS)。当時、国防相兼経済開発評議会議長)が副皇太子に任命されました。それ以来、彼が国王の後継者であることは規定路線だったと言って良いでしょう。

初代国王アブドゥルアジズの子孫であるファイサル家やアブドラ家といった名門諸家の間の均衡を重視する時代は去り、スデイル家(スデイリー・セブン。初代国王の妻ハッサ・スデイリー妃を母とする7兄弟の家系)、なかでもサルマン家を重用する傾向は明らかになっていました。ムハンマド副皇太子氏の有能さを評価する声は高く、このままいっても国王継承には問題がなかったはずです。

また、ムハンマド副皇太子は就任後、経済政策の実権を握る経済開発評議会議長として、原油産出に依存してきたサウジの国家経営を根底から改革することに着手し、2016年4月には、国営石油会社サウジアラムコのIPO(新規株式上場)等を柱とする包括的な経済改革プラン「Vision2030」を高らかに謳いあげ、2030年までに非石油収入を6倍超に増やすといった改革案を提示しています。

2014年秋以降の原油価格の低迷で、国民の7割を占める公務員からなる中間層の生活は苦しくなる一方であり、失業率も12%に上昇。財政赤字が積み上がる中で、構造改革を実現できる次世代のリーダーとしてムハンマド副皇太子に期待する声は高かったといえるでしょう。また、外交面でも、イランに対して徹底した強硬姿勢を取り、一部で緊張激化を懸念する声は出たものの、サウジ国内でムハンマド副皇太子の強力なリーダーシップを賞賛する声が多かったのも事実です。

しかし、そのムハンマド副皇太子が直面したのが、足元の「抵抗勢力」です。人口3100万人のサウジには1万5000人とも2万人とも言われる王族がいますが、ありとあらゆる利権に特権階級の王族が関与しているのが常識とのこと。

ムハンマド氏の目玉政策であるサウジアラムコのIPOも、上場によって財務情報を含めた情報開示を徹底させることで利権を透明化する狙いがあったと言われていますし、また、娯楽産業の解放や女性の自動車運転の解禁等、ムハンマド氏が開明的な政策を打ち出せば出すほど、守旧派の王族や宗教界からの反発が強まっていました。

つまり、コンセンサスを重視するあまり遅々として改革が進まないことに業を煮やしたムハンマド氏が、国内での膠着状況を打破すべく、皇太子就任後わずか4ヶ月にして、前国王派を中心とする抵抗勢力を一掃して権力基盤を強化すべく、一気呵成に前例のない強硬策に踏み切った-。これが今回の粛清劇だと考えられます。

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サウジアラビアの最高委員会(supreme committee)

11月4日にサウジアラビアで始まった大規模な腐敗摘発ですが、粛清の端緒は、摘発直前にサルマン国王が発表した以下の内容の勅令でした。

第一に、皇太子をトップとする「最高委員会」(supreme committee)を創設する。メンバーは、監視捜査委員会委員長(Chairman of the Monitoring and Investigation Commission)と国家腐敗防止委員会委員長(Chairman of the National Anti-Corruption Authority)、監査局長(Chief of the General Audit Bureau)、検事総長(Attorney General)と国家保全省長官(Head of State Security)である。

第二に、最高委員会は、法令・規制の制限を受けることなく(Exemption from laws)、以下のタスクを遂行する。

❶腐敗に関与した個人・法人、犯罪・違法行為を特定すること
❷捜査、逮捕状の発布、海外渡航禁止、銀行口座・資産の開示と凍結、資金・資産の追跡、海外送金の防止。委員会は、捜査機関・司法機関に委ねるまでは、あらゆる保全措置を講ずることが可能であり、国の内外を問わず腐敗に関わる資産を国庫に戻し国有財産として登録することが出来る。

第三に、委員会は捜査・訴追等のチームを編成でき、権限を委任することが出来る。

第四に、委員会は義務を完了した暁には、詳細な報告書を提出しなければならない。

第五に、この命令は関係省庁に周知徹底されなければならず、全ての関係者は完全に協力しなければならない。

サウジ国営ニュースサイト「アル・アラビヤ」に基づいて作成
http://english.alarabiya.net/en/News/gulf/2017/11/04/Saudi-Crown-Prince-to-head-a-new-committee-to-combat-corruption.html

この国王勅令によると、ムハンマド皇太子が率いる最高委員会はあらゆる法令の制約を受けないで、捜査・逮捕から資産没収に至るまで超越的な権限を行使できる機関とされています。この点から、一部には今回の粛清劇を、超法規的に権力を再強化する非常手段が取られたという意味で、「逆クーデター」と呼ぶ向きもあります。軍部等が超法規的に権力を簒奪するクーデターとは逆にベクトルが働く非常事態という訳です。

しかし、サウジは絶対君主制の国家であり、超越的な権限を行使するとはいっても、国王大権に由来した権限を行使しているに過ぎません。その意味では政治的粛清(Political Purge)の一環に過ぎないという方が正確でしょう。

その意味で興味深いのが、今回の摘発主体となっている組織が「supreme committee」という名称になっていること。

日本メディアの多くは、これを「汚職対策委員会」や「反腐敗委員会」と訳出していますが、実際には「至高性」を正面から掲げている名称であることは見落とせないポイントだと思います。この組織の権限規定自体は、例えばインドネシアのKPKなどの腐敗摘発機関のものと大した違いはないのですが、絶対君主国家における国王大権に由来して超法規的措置を取るという性格を如実に表しているのが、この「最高委員会」という名称だと思われます。

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サウジアラビアの腐敗摘発

11月4日、サウジアラビアで突如、大規模な腐敗摘発が始まりました。ムハンマド・ビン・サルマン皇太子(Mohammed bin Salman)(32歳。通称MbS)が主導し、サウド家の王子11人、閣僚4人を含む数十人がいっせいに拘束されたと伝えられています。

https://english.alarabiya.net/

拘束された者の中には、

  1. アブドラ前国王の息子であるムトイブ国家警備相
  2. 有力者のファキーフ経済計画相
  3. 著名な大富豪投資家アルワリード・ビン・タラル王子
  4. 大手建設会社会長のバクル・ビン・ラディン氏

が含まれています。前国王に近い王族・有力者や、あるいはMbSの皇太子昇格(2017/6/21)に異を唱えた関係者が含まれていることから、ムハンマド皇太子に権力を集中させるための「政治的粛清」という側面が強いといえます。

サルマン国王が勅令を出して「最高委員会」(supreme committee)を創設した直後の粛清劇に、世界中で衝撃が走っています。

摘発は現在も続いており、拘束されている人間は200人超、凍結された銀行口座は330億ドル(約3兆7000億円)超と報じられています。現地系メディアによっては拘束者が千人を超えているとしているところもあり、予断を許さない状況です。

今回拘束されたのは、賄賂を「もらった側」の王族・有力者ですが、次の段階では賄賂を「贈った側」に捜査の焦点があたらないとは限りません。サウジアラビアビジネスにコミットしている企業にとって、リスクが大きく変動する重大局面を迎えているといっても大げさではありません。

最新のサウジアラビア情勢を踏まえて、今回の粛清劇が何を意味するのか、今後どうなっていくのかについて、次回のBERC「外国公務員贈賄罪研究会」で分析します。

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タイと外国公務員贈賄罪

今月のBERC「外国公務員贈賄罪研究会」は、タイ特集です。

タイといえば、「腐敗防止法」が2年前に改正され、

❶贈賄罪・外国公務員贈賄罪(5年以下の懲役・10万バーツ以下の罰金)
❷収賄罪・外国公務員収賄罪(死刑・終身刑・5年以上20年以下の懲役・10万バーツ以上40万バーツ以下の罰金)
❸法人責任(両罰型、適切な内部措置を講じていないことが要件)=賄賂額の2倍以下の罰金

が追加されました(Organic Act on Counter Corrpution, No.3 B.E. 2558(2015))。2011/3/31にタイがUNCAC(国連腐敗防止条約)に加盟してから4年、ようやくタイにも外国公務員贈賄罪が導入された訳です。

この改正によって腐敗防止法は、「国家汚職防止委員会」(National Counter Corruption Commission :N.C.C. Commison または National Anti-Corruption Commision:NACC)の設置法と一部の汚職関係犯罪にとどまらず、実質的な贈収賄罪の実定法として機能するようになりました。

タイ政府は、国家戦略として「第三次腐敗防止国家戦略」(Natioanl Anti-Corrupution Strategy –Phase 3 (2017-2021))を策定しており、実際に35個の政府プロジェクトでIntegrity pactが締結されたほか、2015/7/21には「免許付与手続法」(Licensing Facilitaiton ACT)が制定されるなど、ビジネス環境の整備が着々と進んでいます(ちなみに、第三次腐敗防止国家戦略における戦略的目標は、「CPIの上位50%に入る」ことだと規定されています。なんとも分かりやすい目標ですね)。

今回の外国公務員贈賄罪研究会では、タイに進出している日本企業2社による事例発表とともに、タイの腐敗防止制度について解説していきたいと思いますが、タイ・ビジネスで重要なのは、もちろんそういったことだけではありません。

日本企業とタイの腐敗については、なんといっても2009年の「西松建設事件」が記憶に新しいところです。

2003/7、西松建設が現地の「イタリアン・タイ・ディベロップメント社」(ITD)とJVを組んで、バンコク都庁の「洪水対策トンネル工事」を落札(66億円)した際に、4.8億円相当の賄賂が供与されたのではないかという疑惑です。報道によると、うち3.5億円が政府高官、1.3億円が汚職監視機関に渡され、西松建設は2.4億円を負担したとも伝えられています。

2008/6/4に東京地検特捜部が外為法違反の容疑(裏金7000万円の持ち込み)で西松建設本社を家宅捜索し、翌2009/1/14には、社長(元管理本部長:経理統括)・腹心の副社長らが外為法違反で逮捕されました(なお法人も略式起訴されており、罰金100万円が確定しています)。

重要なのは、バンコク都庁の公務員(政治家)すなわち外国公務員への贈賄として、外国公務員贈賄罪事件の捜査も進んでいたという点です。

タイ側も2009/4/21には、前述した 「国家汚職防止委員会」(NACC)に特別捜査委員会を設置し、日タイ両国で同時進行的に捜査が進みましたが、結局、「外国公務員贈賄罪」での立件はなされませんでした(なお、日本の国税庁は6億円を追徴課税しています)。

2009/5/15に公表された、西松建設の内部調査報告書によると、

①海外ペーパーカンパニーで裏金9億円(うち4.7億円が使途不明)を捻出した。
②そのうち、日本に3.3億円持ち込み、うち1.4億円を海外事業副部長が着服した。
③タイでは、JV現地企業に2.2億円を仲介手数料として渡した。

とのことでしたが、2.2億円の「仲介手数料」の賄賂性についての判断はなされないままで終わってしまった訳です。

それはなぜだったのか。

色々な見方ができると思いますが、一つには、この事件は、タイでの贈賄疑惑と別に、日本国内での政治献金事件の流れに棹さしていたという事情があります。政治家の資金管理団体への企業献金は1995年の法改正で禁止されましたが、その後に西松建設が生み出した「個人献金を偽装した政治家の資金管理団体への企業献金スキーム」が当時、捜査の焦点になっていました。西松建設が新設した「特別賞与加算金」(11億円相当)を原資とする5.9億円が二つの政治団体に流れ、そのうち4.8億円が政治献金やパー券購入の名目で政界に流れたのではないかということで、日本中が大騒ぎになった事件です。ここでは詳細に立ち入りませんが、その一連の過程で、傍流たる「外国公務員贈賄罪としての立件」が見送られたという事情は指摘できると考えられます。

もう一つは、タイの国内事情です。2003年当時のバンコク都知事だったのはサマック氏(Samak Sundaravej)。後に首相に昇りつめるサマック氏が事件捜査当時どのようなポジションにいたかを、タイ政治史の中で位置付けることが、背景事情の理解には必要です。1997年の憲法改正で小選挙区制が導入されたことを契機に、今に至るまで20年に渡って継続しているタイ政治における「タクシン派と対抗勢力の争い」が始まったと言える訳ですが、その流れの中でサマック氏が果たしてきた役割の分析が重要だと考えられます(これ以上は研究会で検討したいと思います)。なお、反タクシン派がタクシン派打倒の手段として度々利用したのは、皮肉にも同じ1997年の憲法改正が導入した憲法裁判所と汚職防止委員会でした(両者の争いに起因する混乱が制御しきれなくなると軍部がクーデタを起こしタクシン派政権を潰すというループが続いていますが、潰すたびに、タクシン派が強固になっているような気がします。2017/9/23にはタクシン氏の妹であるインラック前首相が、コメ担保融資制度の導入で国庫に莫大な損失を与えたということで汚職防止委員会によって追及され、遂に国外逃亡しました。しかし、今なお両勢力の争いに最終的な決着がついた訳ではありません)。いずれにせよ、タクシン派を巡る激しい抗争の中で、「バンコク都庁公務員」への贈賄疑惑がかき消されてしまったのではないかと思われます。

それにしても、日本とタイ双方で同じように既存勢力(establishment)に闘いを挑んだ二つの政治ベクトルが、西松建設を交点として偶然にもクロスした時に、日本とタイを舞台とする外国公務員贈賄罪疑惑がふと浮かび上がった—。これが、西松建設タイ事件だったのかもしれません。そうだとしたら、その儚い事件が、圧倒的な政治的熱量を有した政治的闘争の中で立件されることなく消えていったのは、ある意味では仕方がなかったと言えるでしょう。

 

 

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比例選出国会議員の「政党間の移動禁止」

10月22日の総選挙は、自公の圧勝、希望の完敗、立憲民主の躍進に終わりました。

9月25日に開かれた安倍総理の解散表明会見の機先を制するように、小池百合子東京都知事が新党「希望の党」代表就任を発表した時、日本中がまさかの政権交代を期待する興奮に包まれたと言っても過言ではありませんでした。自民党と切磋琢磨する、改革保守政党がいよいよ誕生するかという期待が高まった訳です。

しかし、解散当日の9月28日、民進党の両院議員総会で前原代表が希望の党との「事実上の合流」を提案し了承された時から、歯車が狂い出しました。小池知事が翌日「排除します」と発言しましたが時既に遅しで、「排除の論理」という言葉が一人歩きし、希望の党は強い批判にさらされ、勢いが急速に衰えてしまいました。

代わって台頭したのが、枝野幸男氏が中心となって結党された立憲民主党です。「排除される側」の演出に判官贔屓の追い風が吹き、野党第一党の座は立憲民主党が獲得することになった訳です。

開票結果を受けて、民進党の前原代表が辞意を表明し、希望の党への合流路線は結局ご破算になり、希望の党がもう一度勢いを取り戻すのは現状では難しいと言わざるを得ません。また、民進党に所属しながら、今回の総選挙には無所属で出馬したベテラン有力議員は多数います。この不安定な状況が一時的なものであることは明白であり、野党再編の動きは必至と言えます。

では、どのような野党再編が起きるでしょうか。幾つかのシナリオを想定し、「比例代表選出議員の政党間移動禁止のルール」と、「政党交付金の分配ルール」を踏まえて、実現可能性を検討した小稿を現代ビジネスに寄稿しましたので、お読みいただければ幸いです。

「「野党再編」の動きは、この2つのルールを知れば読み解ける
  政界再編を裏から縛っているもの」

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53303

 

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週刊エコノミスト「ベトナムで相次ぐ汚職摘発 日本企業復権への好機にも」

ベトナムで相次ぐ汚職摘発について、10月10日発売の週刊エコノミスト(毎日新聞出版)に、「エコノミストリポート」として論考を寄稿させて頂きました。

ドイツで白昼の拉致事件 ベトナムで相次ぐ汚職摘発 日本企業復権への好機にも」というものです。

https://www.weekly-economist.com/20171017contents/

このエコノミストリポートでは、

  • なぜ、タイン氏はベルリンで拉致されたのか。
  • なぜ、ベトナムで今、汚職摘発の風が吹き荒れているのか。
  • ズン首相の失脚はどう関係しているのか。
  • ペトロベトナム(PVN)とペトロベトナム建設(PVC)の捜査の行方は?
  • 日本企業の取るべき策とは(ESG投資・国連グローバルコンパクト10・インテグリティ)

といった問題について、現時点での私の考えを書いてみましたので、お読み頂ければ幸いです。

特に注目されるのは、タイビン省の火力発電所建設プロジェクト(第2発電所)です。このプロジェクトで不正な会計処理を行ったとして、9月末にPVNの会計責任者をはじめとする4名のPVN、PVC関係者が逮捕され、更にPVC幹部3名も拘束されています。

日本の円借款によるODA事業として、送電線建設事業と合わせてこれまでに合計1220億円のODA資金が投入されているタイビン省の火力発電所ですが、第1発電所の案件は丸紅が単独受注、第2発電所は東芝と双日が受注したものです。

その案件がまさに今、ベトナム政府による汚職摘発の舞台になりつつあります。

7月23日のベルリン拉致事件は、実は、日本企業にとって看過できない「レッド・フラッグ」だった訳です。

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