三菱日立パワーシステムズ(MHPS)、タイでの外国公務員贈賄罪事件で日本初の司法取引へ

今朝(2018/7/14)の読売新聞が、「初の司法取引、海外贈賄」というスクープを放っています。読売新聞の記事によれば、

  1. タイの発電所建設事業で三菱日立パワーシステムズ(MHPS)の担当社員が、資材を陸揚げする際に「桟橋の使用料」名目で現地の公務員から賄賂を要求され、2015年2月、約6000万円を支払った。
  2. 会社(MHPS)は内部告発で不正を把握。2015年、東京地検特捜部に自主申告した。
  3. 東京地検特捜部とMHPSは2018年6月、司法取引の協議を開始。合意内容書面双方に署名。
  4. 東京地検特捜部は、贈賄を行なった担当社員らの刑事責任を追求する一方で、MHPSの法人起訴は見送る見通し。

とのことです。

https://www.yomiuri.co.jp/national/20180714-OYT1T50005.html

 

外国公務員贈賄罪の摘発としては、2011年の住友商事インドネシア事件(送検済)を含めると6件目(起訴案件としては5件目)、そして、刑事訴訟法改正によって導入され、この6月から施行されている「司法取引」(合意制度:刑訴法350条の2〜28等)が適用される案件としては我が国初の事例ということになります。

MHPSといえば、三菱重工と日立製作所の火力電力部門が統合して出来た合弁会社。火力発電事業の分野では我が国を代表する企業ですが、南アフリカ政権与党のフロント企業に対する利益供与がFCPAに違反するとして2015/9/28、日立製作所がSEC(米国証券取引委員会)との間で1900万ドル(約23億円)の制裁金を払う合意を交わした事件が記憶に新しいところです。今回のタイ事業はもともと2013年に三菱重工が受注したものとはいえ、同じ発電所事業でSECの捜査に対応していたであろう2015年にタイで贈賄工作を行なっていたとは、なんとも深刻な事態だったと言えるでしょう。

今回の司法取引が、社員の個人責任追求に企業として協力し、その代わりに法人責任を免責してもらえるというものであるとすれば、「企業トップらによる不正を部下らに供述させ、組織ぐるみの犯罪を摘発することが想定されている」制度の「趣旨に反するようにみえる」という読売新聞の解説(社会部板倉拓也記者)はなるほど鋭い指摘だと思えます。

この点について、外国公務員贈賄罪の観点から言うと、今回の事件処理は、米国で2015年9月に公表された「イェーツ・メモ」(Individual Accountability for Corporate Wrongdoing)に親近性を持つ側面があると言えます。イェーツ・メモは、今となっては既に懐かしい元DOJ司法長官補のSally Quillian Yates氏の名前で公表されたFCPAの捜査指針。外国公務員贈賄における企業役職員の「個人責任」追求を重視した捜査を行い、企業が捜査に協力し、個人責任の特定に貢献すれば、企業に対する量刑を減免したり、あるいは訴追を免除したりするというものです(ちなみにサリー氏はその後トランプ大統領によって更迭され、「イェーツ・メモ」はサリー氏が残した置き土産になりました)。

2016年5月24日に成立した改正刑訴法は、合意制度(司法取引)のみならず、取調可視化、刑事免責、通信傍受等の導入・改正を含んでいますが、我が国の刑事処分手続の今後を大きく変えると期待されていたものです。その中の目玉政策である「司法取引」が、「法人免責・個人追求」の類型で、しかも「外国公務員贈賄罪」の事件でスタートするということに大きな注目が集まりそうです。

 

 

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