日産カルロス・ゴーン会長、逮捕。

本日(2018/11/19)の夕刻17時過ぎ、「日産のカルロス・ゴーン会長が東京地検特捜部に任意同行を求められており、まもなく逮捕される」という驚愕のニュースが飛び込んできました。第一報は朝日新聞のスクープです。

カルロス・ゴーン(Carlos Ghosn)氏といえば、経営危機にあった日産に救済の手を差し伸べた仏ルノー社から送り込まれ、あっという間に業績をV字回復させることに成功、その後ルノー本体の社長や、三菱自動車の会長にも就任していた大物経営者です。そのゴーン氏にいったい何があったのか、騒然とする中で、「金商法に違反した」「報酬の過少記載があった」という以外に、詳細がよく分からない状況が続きました。

夜になり、日産本社が公表したプレスリリースによって事件の概要がおぼろげながら見えてきました。それによると、

  1. 事件の端緒は「内部通報」だった。内部通報を受けて日産は、数ヶ月間にわたり内部調査を行った。
  2. 内部調査の対象は、代表取締役会長カルロス・ゴーン氏及び代表取締役グレッグ・ケリー氏。
  3. 調査の結果、二人が、開示されるゴーン氏の報酬額を少なくするため、長年にわたり、実際の報酬額よりも減額した金額を有価証券報告書に記載していたことが判明した。
  4. ゴーン氏には、日産の資金を私的に支出するなどの複数の重大な不正行為が認められた。ケリー氏もそれらに深く関与していることも判明した。
  5. 日産としては、これまで検察当局に情報を提供するとともに、当局の捜査に全面的に協力してきた。引き続き今後も協力する。
  6. 内部調査によって判明した重大な不正行為は、取締役としての善管注意義務に違反するものなので、日産の最高経営責任者として、カルロス・ゴーン氏の会長及び代表取締役の職を速やかに解くことを取締役会に提案する。また、グレッグ・ケリー氏についても、代表取締役の職を解くことを提案する。

というもの。つまり、内部通報を受けた社内調査によってゴーン会長とケリー代表取締役の不正行為(有価証券報告への報酬の減額記載および会社資金の私的支出等)が明らかになり、検察に情報を提供したということが判明しました。

これは、2018年7月に摘発され、我が国の司法取引適用第1号になった三菱日立パワーシステムズ(MHPS)社事件とよく似た構図の事件です。とすれば、今回も、司法取引の適用(合意)がなされる(なされている)可能性があると言えるでしょう(遅くとも起訴段階で判明するはずです)。

日産のプレスリリース全文はこちらです。

当社代表取締役会長らによる重大な不正行為について
2018年11月19日

日産自動車株式会社(本社:神奈川県横浜市西区、社長:西川 廣人)は、内部通報を受けて、数カ月間にわたり、当社代表取締役会長カルロス・ゴーン及び代表取締役グレッグ・ケリーを巡る不正行為について内部調査を行ってまいりました。
その結果、両名は、開示されるカルロス・ゴーンの報酬額を少なくするため、長年にわたり、実際の報酬額よりも減額した金額を有価証券報告書に記載していたことが判明いたしました。
そのほか、カルロス・ゴーンについては、当社の資金を私的に支出するなどの複数の重大な不正行為が認められ、グレッグ・ケリーがそれらに深く関与していることも判明しております。

当社は、これまで検察当局に情報を提供するとともに、当局の捜査に全面的に協力してまいりましたし、引き続き今後も協力してまいる所存です。

内部調査によって判明した重大な不正行為は、明らかに両名の取締役としての善管注意義務に違反するものでありますので、最高経営責任者において、カルロス・ゴーンの会長及び代表取締役の職を速やかに解くことを取締役会に提案いたします。また、グレッグ・ケリーについても、同様に、代表取締役の職を解くことを提案いたします。

このような事態に至り、株主の皆様をはじめとする関係者に多大なご迷惑とご心配をおかけしますことを、深くお詫び申し上げます。早急にガバナンス、企業統治上の問題点の洗い出し、対策を進めてまいる所存であります。

以上

https://newsroom.nissan-global.com/releases/release-860852d7040eed420ffbaebb223b6973-181119-01-j?lang=ja-JP

 

その後22時から、日産本社で西川社長が記者会見を行いました。NHK等の中継放送によると、

  1. 内部通報を受けて、監査役等による社内調査を実施した。
  2. その結果、❶有価証券報告書の過少記載、❷投資資金の不正支出、❸会社経費の私的利用という三つの不正行為が判明した。
  3. 不正の背景にあるのは「一人に権限が集中した歪み」であり、ゴーン統治の負の側面・遺産だ。

等の説明が加えられました。

このうち❶については、一連の報道によると、2010年から2014年にかけて実際には合計「99億9800万円」の報酬が、有価証券報告書では「49億8700万円」と記載されていたというものです。

例えば「第119期(平成29年4月1日 ‐ 平成30年3月31日)」の有価証券報告書を見ると、

となっており、7億3500万円という金銭報酬額が記載されていますが、実際にはそれよりも多かったのではないかという疑惑です(なお、実際に払われた額は基本的に会社内部の者しか分からないはずです)。時期のズレが気になります。

❷については、テレビ朝日によると、「レバノンやブラジルでの土地取得費用30億円相当が私的に流用された」疑いがあるとのことです。これが事実とすれば会社法上の特別背任罪または刑法上の業務上横領罪にあたる可能性があると言えます。

❸の経費流用については、詳細は不明です。

現時点で事実の存否は明らかではありませんが、仮に日産の記者会見内容や一連の報道が事実であるとした場合、「投資家の判断材料の基礎事実となる有価証券報告書に虚偽記載をしただけではなく、企業トップが権限を濫用して会社財産を私的流用した」という腐敗の構図が浮かび上がってきます。

このような腐敗自体は決して珍しいものではありませんが(残念ながら)、今回の事件が衝撃をもって受け止められているのは、日産+三菱自動車+ルノーという①「巨大グローバル企業」のトップが、②「コンプライアンス違反」を行い、それが③「内部告発」で明らかになり、会社側が④「自主的に申告」して、東京地検特捜部が強制捜査に乗り出したという構図があるからです。この①〜④の4点セットは最近の企業犯罪・不祥事の典型的な構成要素とも言えるものですが、日本を代表する企業の一つである日産で、カリスマ的な経営者であるゴーン氏が典型的腐敗に関与していたとは俄かには信じがたいものがあります。

ゴーン会長が専用ジェット機で羽田空港に到着するのを待ち構えて任意同行が行われたり、プレスリリース発表および社長による記者会見実施が同じ日のうちにスムースに行われたといった経緯を見ると、日産が検察への全面的協力の下で用意周到に準備を行っていたのではないかという印象を受けます。

これを、コンプライアンスを理由として会社トップを「追放」するという意味で「コンプライアンス・クーデター」というかどうかは別にして(クーデターには超法規的措置という意味での違法性が内在しているのが普通ですが、今回の一連の措置は法令に基づいた適正な手続きを実施しただけとも言えます)、司法取引を前提とした今後の企業コンプライアンスおよび内部統制にとって、試金石となるような事件が発生したということだと思います。引き続き事件の経緯を注視していきたいと思います。

(なお、今回の発言は個人的見解を表明したものであり、筆者の属する組織の公的見解を代表するものではありません)

 

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