ベトナムで吹く汚職摘発の風

ベトナムで今、汚職摘発の風が吹き荒れています。

ペトロベトナム建設元会長のチン・スアン・タイン氏が「出頭」したのと同じ7月31日、ハノイで汚職摘発に関する「汚職防止中央指導委員会」(Central Steering Committee for Anti-Corruption)の第12回会議が、ベトナム共産党の最高指導者であるグエン・フー・チョン(Nguyễn Phú Trọng)書記長によって開催されていました。

タイン氏はいわばその人身御供、と言うと語弊があるかもしれませんが、いまベトナムで吹き荒れている汚職摘発の最重要ターゲットが「ペトロベトナム」と「ペトロベトナム建設」であることから、何が何でも身柄を押さえたかったのだと考えられます。

もちろん、ベトナム政府の基本政策として、汚職摘発の推進は確固たる地位を占めていることは間違いありません。例えば、2011年1月の 第11回共産党全国党大会で承認された「2011〜2020年社会経済開発戦略」は、次のように規定しています。

  1. 汚職や浪費の防止・排除の促進

汚職や浪費の防止・排除を断固として効果的に実施することは、共産党と国家の建設にとって重要で緊急で長期的な課題である。法律と管理体制を完成し、公務員の人格を向上させる。民主主義、透明化を実施し、監視活動を強化し、国民が国家の資産と予算の使用を監査できるように監査制度を作る。専門機関の能力を向上させ、汚職と浪費の行為を厳しく処罰し、国家の経済発展に応じて公務員の給与制度を改革する。汚職と浪費の摘発・防止におけるベトナム祖国戦線、各団体、国民、マスコミの役割を発揮する。

同じ社会主義国家である中国と同様に、汚職は人民の支持を失わせ共産党の支配を揺るがすことになりかねませんので、汚職摘発は、社会主義国家にとってプライオリティーが高い政策です。

しかし、今回の拉致劇の背景には、そうした一般的な事情とは異なるものが潜んでいると思われます。

それは、昨年のズン首相失脚です(この点についての詳細は別の機会に書きたいと思いますが、権力闘争の一環であるとの視点は極めて重要です)。

いずれにしても今回のベルリン拉致事件、日本ではあまり知られていませんが、現在の腐敗防止に関する国際潮流の中で、極めて重要な事件であると考えられます。

なお、ベトナムの汚職摘発で興味深いのは、収賄罪(刑法279条)や贈賄罪(289条)ではなく、「自己の職務を濫用し経済管理に関する国家規則を故意に侵犯して、重大な被害を引き起こした」(165条)というベトナム版特別背任罪が用いられていること。単に職権を濫用して損害を与えただけでは不十分で、「国家規則の違反」がないといけないという点です。

今回のチン・スアン・タイン氏の摘発に関して、本来使用してはならない公用車向けの「青ナンバープレート」を自分の私用車に装着していたことが喧伝されているのは、そのためでしょう。

ちなみにチン・スアン・タイン氏の車はレクサス(Lexus)の最上位SUVであるLX。ベトナムでのLX570の標準価格は53億5400万ドン(約2590万円)なので、相当な高級車ということになります。ドイモイ政策がもたらした経済成長の影には、圧倒的な経済格差が広がっている現状があります。

都市部(ハノイ・ホーチミン)との格差が拡大する地方

 

Tweet about this on TwitterShare on FacebookShare on Google+Share on LinkedInEmail this to someonePrint this page

韓国・金英蘭(キムヨンラン)法の射程と影響

今月のBERC「外国公務員贈賄罪研究会」は、韓国特集です。

韓国といえば昨年2016年9月28日に施行された「金英蘭法」(キムヨンラン法)が注目を集めています。金英蘭法といえば、民間人ジャーナリストや私立学校の先生を「公職者等」(公務員)に含めたことによって、全世界に衝撃を与えたことは記憶に新しいところです。

アップルが企業イベントWWDC2017への招待対象から韓国メディアを除外する等、グローバル企業の広報体制にも大きな影響を与えつつある金英蘭法。実は、適用対象が一部民間人にも拡大されているという民民贈収賄防止の流れに棹さしているだけではなく、内部告発や報奨金の規定も含めて、多くの示唆を与えてくれるものです。

そこで、今回の外国公務員贈賄罪研究会は、韓国に進出している企業による事例発表を中心として、金英蘭法について詳細に検討を加えていきます。ソウルで取材した最新情報もお届けしたいと思います。

Tweet about this on TwitterShare on FacebookShare on Google+Share on LinkedInEmail this to someonePrint this page

なぜ男はベルリンで拉致されたのか

7月23日、ベルリン中心部で一人のベトナム人男性が、武装した集団に拉致されました。

拉致された男の名前はチン・スアン・タイン(Trinh Xuan Thanh)氏。国営ベトナム石油ガスグループ(ペトロベトナム)傘下の建設会社「ペトロベトナム建設」(PetroVietnam Construction Joint Stock Corporation:PVC)の会長として、ハウザン省人民委員会副委員長や国会議員にも就任するなど権勢を振るっていた人物です。

http://www.afpbb.com/articles/-/3138009

タイン氏を拉致したのはベトナム情報部でした。実はタイン氏は、汚職の嫌疑でインタポールによる国際指名手配中であり、ドイツ政府に亡命を申請していた人物だったのです。

自国の領域内で、亡命申請中だった人物を拉致されたドイツ政府は激怒、ベトナム大使館関係者をペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物:Persona non grata)に指名し国外退去させるという報復措置を講じました。

拉致されたタイン氏は、10日後、ベトナムに姿を現しました。国営ベトナムテレビに出演し、虚ろな目で「自ら出頭した」と証言したのです(ビデオ出演)。拉致事件の関係者がチェコ当局によって逮捕され、既にドイツに引き渡されているとも伝えられています。チェコ経由でベトナムに強制連行された可能性が高いと思われます。

「自首した」と伝える国営ベトナムテレビジョン(VTV)

http://vtv.vn/trong-nuoc/ong-trinh-xuan-thanh-toi-da-ra-dau-thu-20170803190749407.htm

ちなみにドイツですが、ベルリンの壁が崩壊する前の東ドイツ時代、同じ社会主義国家ということでベトナムから留学生だけでなく、多くの労働者が東ドイツに出稼ぎに行っていた関係で、今でも一定のベトナムコミュニテイが存在しているとのことです。タイン氏が第二の人生を送ろうとしたドイツから拉致された際の絶望は、察するに余りあります。

なぜ、タイン氏はベトナム政府によって拉致されたのでしょうか。実はその背景には、ベトナムで今吹き荒れようとしている風があります。日本企業も巻き込まれるかもしれない、その風はいったいどういうものなのか。その詳細は、また次の機会に。

 

 

Tweet about this on TwitterShare on FacebookShare on Google+Share on LinkedInEmail this to someonePrint this page

インドネシアの贈収賄とマネーロンダリング

今月のBERC「外国公務員贈賄罪研究会」は、インドネシア特集です。

インドネシアといえば、日本でいう住基ネットに相当する「e-KTP」の導入にあたって発生した議会と省庁における大規模な巨額汚職事件が捜査されており、その反動として、KPKに対する政治的圧力がたいへんなことになっています。我が国の高速鉄道輸出案件失注も記憶に新しいところですが、生半可な対応ではおぼつかない国の最たるものと言える国です。

そこで、今回の外国公務員贈賄罪研究会は、インドネシアに進出している企業による事例発表を中心として、かの国の腐敗について検討を加えていきます。後半は、スペシャルゲストを招いて、マネーロンダリングの最前線を扱います。

Tweet about this on TwitterShare on FacebookShare on Google+Share on LinkedInEmail this to someonePrint this page

「中間報告」とは何か

本日(6/15)の早朝、テロ等準備罪法案(いわゆる共謀罪の趣旨を取り組んだ組織犯罪対策処罰法改正案)が参議院本会議にて可決され、成立しました。

賛成165票、反対70票。「牛歩戦術」をとった野党議員3名の投票が議長の議事整理権(国会法19条)に基づく「時間制限」を超えたため、投票しなかったことにされました(「無効」ではありません。ちなみに他に4名の議員が投票していません)。

今回の法案採決の手続きで注目を集めたのが、法務委員会での採決を経ないで本会議で採決をするという、「中間報告」という手法。これは、国会法第56条の3が規定している手続きです。

国会法第56条の3

各議院は、委員会の審査中の案件について特に必要があるときは、中間報告を求めることができる。

○2  前項の中間報告があつた案件について、議院が特に緊急を要すると認めたときは、委員会の審査に期限を附け又は議院の会議において審議することができる。

第1項は、審査を付託した委員会で審査をしている最中の案件について、特に必要があるときに、その段階での審査状況の報告を求めることができると規定しています。これが「中間報告」です。

そして、その中間報告があった案件は、「特に緊急を要する」と認められる場合、議院の会議(つまり本会議)で審議することができると、第2項が規定しています。これが今回用いられた手続きです。

国会法の規定によれば、「特別な緊急性」という要件の認定主体は「議院」ですから、すなわち、議院による判断が下されれば、中間報告を踏まえた本会議での審議(採決を含む)が出来るという制度設計がなされていることがわかります。

実際に今回の法案審議では、6/15深夜(2:31開始)の本会議でまず①「中間報告を求めることの動議」が提出され、3人の参議院議員(民進・藤末健三議員、共産・辰巳孝太郎議員、維新・浅田均議員)による討論を踏まえて採決がなされました。結果は、

白色票(賛成)          百四十八票
青色票(反対)            九十票

で可決されました。次に、②法務委員長(公明・秋野公造議員)が中間報告を行い、続いて③「中間報告があった本改正案を直ちに審議することの動議」が出され、2人の議員(民進・田名部匡代議員、共産・井上哲士議員)による討論を踏まえて採決が行われました。結果は、

白色票(賛成)          百四十九票
青色票(反対)            九十票

で、この動議も可決されました。この①〜③の議会プロセスを踏まえて、本番たる④「中間報告があった本改正案の審議」が最終的に、2名の議員(民進・小川敏夫議員、共産・仁比聡平議員)による質疑と政府側答弁(金田勝年法務大臣、松本純国家公安委員長、岸田文雄外務大臣)、更に4名の議員(民進・蓮舫議員、自民・西田昌司議員、共産・仁比聡平議員、維新・東徹議員)による討論を経て、採決に付されました。その結果は、

白色票(賛成)          百六十五票
青色票(反対)            七十票

で、法案が賛成多数で可決されたということになります。

したがって、以上の立法プロセスを見てわかる通り、少なくとも形式的には、国会法の規定からすると手続き上の瑕疵があると言える訳ではありません。野党側が反発をしたのは、一連の法務委員会での議論の時間や内容を考慮すると、「特別な緊急性」の実質が認められないのではないかという問題だろうと思われます。今回の経緯からすると、通常国会の会期末が迫っていたという事情が「特別な緊急性」に該当すると言えるのか、まずは考えてみる必要がありそうです

この点に関しては、

(二) 中間報告後直ちに議院の会議において審議した例

第十六回国会 昭和二十八年八月四日の会議において、電気事業及び石炭鉱業における争議行為の方法の規制に関する法律案につき、労働委員長栗山良夫君から委員会の審査の経過について中間報告があった後、小林英三君外一名提出の「労働委員長から中間報告があった電気事業及び石炭鉱業における争議行為の方法の規制に関する法律案を国会法第五十六条の三の規定により本会議において審議することの動議」が可決され、議長河井彌八君は、直ちに同案を議題としたが、 寺尾豊君の動議により延会することに決した。翌五日同案の審議に入り、質疑、討論の後、同案は可決された。

というケースが参議院での先例とされています(出典:参議院事務局「平成二十五年版参議院先例録」332頁)。

この第16回国会(特別国会)の会期末は昭和28年 8月10日だったので、この時の中間報告は、会期終了日まで「6日」というタイミングでした。

これに対して、今回の国会(193回通常国会)の会期終了日は6月18日。つまり、本日の「中間報告」は会期終了まであと「3日」というタイミングだった訳です。

「特別な緊急性」という要件を、「時間的な切迫性」を重視する観点から考えると、「先例」として引用される案件の半分の時間的猶予と言え、許容されるように思われます。

ただし、「特別な緊急性」を、それ以外の要素、たとえば法案の重要性や、付託委員会における審議の成熟度、上程の必要性、法案を可決・成立させるタイミングに対する社会的期待といった要素も考慮するならば、必ずしも許容されるとは言えないということも可能かもしれません。

しかし、そうした多元的な事情に対する評価はそれぞれです。議院内閣制を前提とする限り、政府与党と野党とで異なる評価があることは当然に想定されます。時間的な切迫性以外の要素については、それこそ、その妥当性を巡って全国民の代表である国会議員が議会で議論して決するべきであり、国会法第56条の3が「議院の判断」に委ねているのはそれゆえではないかと思われますが、いかがでしょうか。

 

Tweet about this on TwitterShare on FacebookShare on Google+Share on LinkedInEmail this to someonePrint this page

ジョセフ・ケナタッチ氏の書簡

国連(人権理事会)のプライバシー権に関する特別報告者(Special Rapporteur on the right of privacy)ジョセフ・ケナタッチ氏(Joseph A. Cannataci マルタ大学)の公開書簡が、国連人権高等弁務官事務所のサイトにPDFファイルとして公開されていましたので、一読してみました。

 

http://ohchr.org/Documents/Issues/Privacy/OL_JPN.pdf

以下は、その記述の一部です。

Further to this amendment, 277 new types of crime would be added through the “Appendix 4”. Concerns were raised that such an important part of the law is part of an attachment to the law since it makes it much harder for citizens and experts to understand the actual scope of the provision.

ケナタッチ氏によれば、「277個の新しい犯罪が別表4で加えられるが、懸念されるのは、そのような重要箇所が法律の付属部分(attachment)であり、市民と専門家が法文の実際の対象(範囲)を理解することがより困難になってしまうことだ」とのことです。

確かに、今回のテロ等準備罪法案は「別表方式」を採用しています。しかし、本文にずらずらと書くのではなく、表形式で対象犯罪を具体的に列挙しているので、むしろ、テロ等準備罪が適用される実際の範囲を理解することが容易になっているとも言えます。

もしこれが、「別表」ではなくて「本文」に列挙しろというのであれば、今回の法案が、「別表3」と「別表4」という二重構造をあえて採用している(別表3が組織的犯罪集団の目的規定、別表4がテロ等準備罪の成立する対象犯罪の列挙で、両者は微妙に異なる)ことの意味を理解していないのではないかという疑念が湧きます。仮に別表方式を採用しないで、本文ベタ打ちでそのような二重構造を表現するとしたら、そのほうがよほど分かりにくくなると思われます。

また、「277個の新しい犯罪が別表4で加えられる」というのも、誤解を招く表現です。TOC条約が要求している基準(長期四年以上の自由剥奪刑又はこれより重い刑を科すことができる犯罪)に照らすと600個以上あると考えられる対象犯罪候補を、組織的犯罪集団が関与するものに限定して、277個まで「絞り込んだ」というのが正確な理解ではないでしょうか。

 Reportedly, the government alleged that the targets of investigations to be pursued because of the new bill would be restricted to crimes in which an “organized crime group including the terrorism group” is realistically expected to be involved. Yet, the definition of what an “organized criminal group” is vague and not clearly limited to terrorist organizations.

ケナタッチ氏はまた、「政府は「テロリズム集団を含む組織的犯罪集団」が現実に関与すると予期される犯罪に捜査対象が限定される旨を主張している。しかし、「組織的犯罪集団」が何かという定義は曖昧であり、テロリズム集団に明確に限定されていない」と言っています。

指摘するまでもありませんが、テロリズム集団は組織的犯罪集団の「例示の一つ」であることは、ケナタッチ氏自身、「含む(including)」という表現を用いている通りです。文言からも立法趣旨からも、「テロリズム集団に明確に限定されていない」のは当たり前というしかありません。

 It was further stressed that authorities when questioned on the broad scope of application of the new norm indicated that the new bill requires not only “planning” to conduct the activities listed but also taking “preparatory actions” to trigger investigations. Nevertheless, there is no sufficient clarification on the specific definition of “plan” and “preparatory actions” are too vague to clarify the scope of the proscribed conducts.

ケナタッチ氏はさらに、「法案の適用範囲が広範であることについて疑問が呈されると、捜査を始める条件として、リスト記載の行為を実行する「計画」のみならず、「準備行為」が行われることを法案が要求している旨の政府の指摘が強調されている。しかし、「計画」の具体的な定義について十分な明確化はなく、また「準備行為」も禁止行為の範囲を明確化するにはあまりにも曖昧だ」とも言っています。

テロ等準備罪法案は、「二人以上で計画した者は、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為」と規定しており、「資金・物品の手配・関係場所の下見」という例を具体的に明文で規定しています。

「それでは不十分だよ」と言われれば、それをむげに否定はできませんが、果たして「準備行為」の内容を法文で今以上に詳しく説明することが必要かという疑問も生じます。

また、「計画」とは、テロ等準備罪の対象となる犯罪を計画するということですから、それぞれの対象犯罪によって内容が当然に異なる訳で、各対象犯罪の構成要件としてその内容が明記されており、かつ、その解釈についても学説や裁判例等の蓄積が多かれ少なかれ存在しているのであれば、テロ等準備罪法案自体に「計画」の行為態様等を詳細に書く必要はないように思えますが、いかがでしょうか。

ちなみに、マルタ共和国刑法48A条は、「共謀罪」について、

The conspiracy referred to in subarticle (1) shall subsist from the moment in which any mode of action whatsoever is planned or agreed upon between such persons.

と規定しています(CRIMINAL CODE, 48A.(2))。

出典:マルタ共和国司法・文化・地方政府省(Ministry for Justice, Culture and Local Government)公式サイトhttp://www.justiceservices.gov.mt/DownloadDocument.aspx?app=lom&itemid=8574&l=1

つまり、どのような態様の行為であれ、複数の者の間で計画または合意された時から共謀が成立すると規定しているだけで、「計画」または「合意」という文言について、具体的な定義は一切ありません。報道にかかわる犯罪(the Press Act)が対象外ということは条文(48A.(1))で明記されていますが、計画や合意についての明確な定義を見出すことは出来ません。

「先ず隗より始めよ」はマルタ語で、”Kulmin jissuġġerixxu għandha tibda.”と言うらしいです。

ケナタッチ氏は、これ以外にも、プライバシー侵害の懸念等をいろいろと書いていますが、それ自体は刑事実体法というより法執行の運用によるところ大なので、ここでは言及しません。いずれにしても、公平中立の立場からの専門家の文章として読むと、幾つか疑問が湧いてくる箇所がある内容と言えるかもしれません。

以上、ケナタッチ氏の書簡の一部に対する私的な感想でした。

Tweet about this on TwitterShare on FacebookShare on Google+Share on LinkedInEmail this to someonePrint this page

外国公務員贈賄罪とベトナム

今月のBERC「外国公務員贈賄罪研究会」は、ベトナムを特集します。

ベトナムといえば、2月28日から3月5日にかけて天皇皇后両陛下が初めて御訪問され、いわゆる「残留元日本兵」の家族と面会されたことが記憶に新しいところです。GW明けに副首相兼外相のミン氏が来日したばかりですが、今年1月には安倍総理が訪越し、6月にはフック首相が来日予定で、活発な外交が展開されています。米国抜きの「TPP11」交渉の上でも我が国にとって重要な存在だと言えます。

そのベトナムとのビジネスにあたって、重大な懸念事項の一つになっているのが、贈収賄を中心とする腐敗です。トランス・ペアレンシーのCPI(2016)スコアは「33」、全体で「113位」という順位です。

今回の外国公務員贈賄罪研究会では、ベトナムにおける「腐敗」がどうなっているのか、どう対処すればよいか、ベトナム改正刑法の施行はどうなるかといった点を、参加企業による事例発表を中心として、検討を加えていく予定です。

Tweet about this on TwitterShare on FacebookShare on Google+Share on LinkedInEmail this to someonePrint this page

コミーFBI長官の電撃解任

5/9、FBIのコミー長官が電撃的に解任されました。ホワイトハウスの声明は、次のような内容です。

The White House
Office of the Press Secretary
For Immediate Release
May 09, 2017
Statement from the Press Secretary

Today, President Donald J. Trump informed FBI Director James Comey that he has been terminated and removed from office. President Trump acted based on the clear recommendations of both Deputy Attorney General Rod Rosenstein and Attorney General Jeff Sessions.
“The FBI is one of our Nation’s most cherished and respected institutions and today will mark a new beginning for our crown jewel of law enforcement,” said President Trump.
A search for a new permanent FBI Director will begin immediately.

https://www.whitehouse.gov/the-press-office/2017/05/09/statement-press-secretary-1

コミー長官が今回「ターミネイト」されてしまった理由ですが、現時点での報道によると、

  1. ヒラリー・クリントン候補の私用メール問題に関する大統領選挙中のコミー長官の判断は「重大な誤り」だったとするレターを、ローゼンスタイン司法副長官がセッションズ司法長官に送った。ローゼンスタイン司法副長官は、コミー長官の一連の対応は「検事や捜査官が教科書でしてはならないと教わる典型例」だと批判した。
  2. セッションズ司法長官がこれを受けて、「FBIの指導部は新鮮なスタートが必要だ」と助言するレターをトランプ大統領に送った。
  3. ヒラリー・クリントン氏が5/2、NYの集会で「私が敗北した理由は最後の10日間におきた出来事のせいだ。もし投票が10月27日だったら、私が大統領になっていた」と恨み節を漏らした。
  4. トランプ大統領が5/9、コミー長官解任に踏み切った。

という経緯が伝えられています。

http://www.jiji.com/jc/article?k=2017051000225&g=int

ローゼンスタイン司法副長官(Rod Rosenstein)といえば、トランプ大統領に解任されたサリー・イエーツ司法長官代行(兼司法副長官)の後任として、1月に指名され、4/25に議会承認が下りたばかりの人です。長いことMarylandの連邦地区検事(DA)を務めていましたが、晴れてDOJ副長官に就任して最初の大仕事が「コミーFBI長官を更迭すること」になった(なってしまった)訳です。

ちなみに、前任のイエーツ副長官は、ヒラリー寄りだったリンチ(前)司法長官が去った後、暫定的に司法長官職を代行している僅かな期間のうちに、①イスラム7カ国からの入国を一時的に制限する大統領令の合法性に疑問を呈するメールを司法省内に送付しただけでなく、②トランプ陣営幹部が選挙期間中にロシア政府関係者と接触していた証拠となる電話盗聴記録をリークしたと報じられている人物です。

我が国の官僚であれば、配置転換前に一時的なポストに就任した場合はじっとしてなにもしないのが普通でしょう。また、政治の世界でも、内閣が総辞職した後、次の内閣が成立するまでの間、行政の継続性の観点から職務を執行する「職務執行内閣」というのがありますが、この職務執行内閣では、政務三役は粛々と業務を執行するだけで新しいことはしないというのが通例だと思われます。それに比べると、サリー・イエーツ氏の戦略的な「後足で砂をかける」技は凄いものがありました。

ともあれ、ヒラリーのメール問題に対する捜査を再開させたことで、「結果として」トランプ大統領当選の立役者となったコミーFBI長官ですが、政権発足後も、トランプ陣営幹部が選挙期間中にロシア政府関係者と接触した問題(いわゆるロシアゲート)の捜査を続行し、トランプ政権の悩みの種になっていました。

「このままほっておくとコミー長官がトランプ政権の獅子身中の虫になる」と考えたのかどうか、トランプ大統領がついに長官解任に踏み切った訳ですが、ワシントンでは「司法妨害ではないか」という大きな波紋が広がっています。

ニクソン政権下のウォーターゲート事件における「土曜日の夜の虐殺」の再来だと指摘する声も出ている今回の解任劇について、ウェブサイト「法と経済のジャーナル」(AJ)に論考を連載することになりました。解任理由とされた「ヒラリー元国務長官のメール問題捜査」の検証を皮切りに、ロシアゲートから政治権力と法執行機関の関係まで、いろいろと考えて行きたいと思います。

http://judiciary.asahi.com/fukabori/2017051900003.html

 

Tweet about this on TwitterShare on FacebookShare on Google+Share on LinkedInEmail this to someonePrint this page

テロ等準備罪(いわゆるconspiracyとしての共謀罪)と司法取引、おとり捜査

テロ等準備罪の議論が国会で行われています。組織犯罪対策において、いわゆるconspiracyとしての「共謀罪」の適用と並んで多いのが、「司法取引」と「おとり捜査」。後者のうち、犯意誘発型は違法とされており、日本ではまだ解禁されていませんが、前者はすでに立法の手当て済みです(施行は来年)。今国会でテロ等準備罪が成立した場合、いずれ焦点となるのは「おとり捜査の全面解禁の可否」となるでしょう。

麻薬取引等の組織犯罪の場合、組織に潜入しつつ協力者を作るというタイプの捜査では、司法取引とおとり捜査はある意味で不可欠の手法です。潜入捜査官の立場は弱く、司法取引・証人保護等の特権を与えないと最終的な協力者を得ることは難しいからです。企業犯罪である営業秘密の窃取の場合もほぼ同様です。

これに対して、外国公務員贈賄罪の場合、一方当事者である収賄側は、現地において実際に公権力を行使する、正統に選出・任命された公務員であることが前提ですので、そこへの潜入というのは想定し難く、また、仮におとり捜査が可能であったとしても、捜査関係者が外国政府の公職を詐称することになる不具合があります。ただし、その場合でも、アルストム事件以降に顕著になってきた贈収賄に関する国際捜査協力体制の下では、賄賂工作が行われる当該外国の捜査機関が協力しておとり捜査が遂行される可能性がないとは言えません。

いずれにせよ、外国公務員贈賄罪の分野で「おとり捜査」が本格化するようになったら、グローバル企業のコンプライアンス確保はまだ一段高い水準を要求されるようになるでしょう。

Tweet about this on TwitterShare on FacebookShare on Google+Share on LinkedInEmail this to someonePrint this page

外国公務員贈賄罪研究会、5年目スタート

BERCで開催している「外国公務員贈賄罪研究会」がこの4月で5年目に突入しました。BERC事務局のビルが移転したこともあり、5年目の今年は、内容を全面刷新し、気分一新でスタートを切りました。

第1回の研究会ではまず、改正独禁法のコミットメント制度(確約制度)の施行について、 TPP担保法として整備されたがゆえに避けられない「運命」について解説しました。ちょうど前日に表明された我が国政府の政策変更によって、実はその行く末はほぼ決まったとも言えるに近い訳ですが、その実務的な意味について解説してみました(グローバルリスク全般を扱った昨年とあまり変わっていないかもしれません・・・)。

本題である外国公務員贈賄罪については、新機軸の試みをやっていこうと思っています。興味のある企業・団体の方はBERCまでお問い合わせください。

Tweet about this on TwitterShare on FacebookShare on Google+Share on LinkedInEmail this to someonePrint this page

サリー・イエーツ司法長官代行の解任劇

2017/1/30、トランプ大統領が司法省(DOJ)のサリー・イエーツ(Sally Q. Yates)司法長官代行を解任したと報じられました。

https://www.nytimes.com/2017/01/30/us/politics/trump-immigration-ban-memo.html

トランプ大統領による「イスラム圏7カ国出身者らの一時入国禁止」を命じた大統領令を支持しないように、イエーツ長官代行が司法省内で通知したことに対する厳しい処分です。

イエーツ氏はもともとオバマ政権でDOJの副長官に任命され、リンチ前司法長官を支えていた人物で、FCPA摘発にあたって企業の執行役員・幹部等の個人責任にフォーカスをあてる新しい捜査指針「イエーツ・メモ」を発表したことで知られていました。トランプ政権の発足に伴ってリンチ長官が退任した後、セッションズ上院議員が新しい司法長官として議会承認を得るまでの間、司法長官代行(acting Attorney General)の地位にあった訳です。

トランプ政権発足後に繰り出され物議をかもしている大統領令に対して、「遂に現役の政府高官が公然と反旗を翻し、それに対して直ちに報復措置が講ぜられたこと」に衝撃が走っていますが、ある意味では当たり前の推移です。

2016年の大統領選挙で、当初優位に立っていたクリントン候補が敗北したのは、私設メールサーバー(clintonemail.com)を使った私用メール問題に対するFBIの捜査が二転三転し、社会の批判を浴びたことが主因の一つです。FBIによる捜査にストップをかけたと報じられているのがDOJのリンチ長官(当時)。コミー長官率いるFBIは泣く泣く捜査を終結させましたが、別の捜査(アンソニー・ウィーナー事件)でクリントン側近のフーマ・アベディン氏のPCから新証拠が見つかったとして、捜査を再開させました。この捜査再開の衝撃が、一時は10ポイント近く支持率で負けていたトランプ候補を復活させたのでした。FBIによる再捜査はわずか8日で終結(再終結)させられましたが、一連の経緯が(少なくとも、結果として)トランプ候補を後押しすることになったのは否定できないところでしょう。ちなみにFBIのコミー長官は、政権交替後、早々と「留任」が決まったと報じられています。

イエーツ長官代行がDOJを去るというのは既定路線の話であり、もともとセッションズ新長官が承認されるまでの僅かの期間、長官代行の職に就いていたに過ぎません。驚きだったのは、大統領令とそれに対する各地での抗議活動の盛り上がりの機を逃さず、サリー・イエーツ氏が「大統領に逆らって解任される」という「劇」を見事に演じ切ったことだと言ったら、言い過ぎでしょうか。

 

Tweet about this on TwitterShare on FacebookShare on Google+Share on LinkedInEmail this to someonePrint this page

トランスペアレンシー・インターナショナルがCPI2016を発表

2017/1/25、トランスペアレンシー・インターナショナルが最新版の「汚職認識指数2016」(CPI2016)を公表しました。 http://www.transparency.org/news/feature/corruption_perceptions_index_2016

トランスペアレンシー・インターナショナル(Transparency International: TI)とは、世界銀行の局長だったピーター・アイゲン氏が創立した、腐敗防止に取り組む世界で最も権威のある国際NGOです(本部ベルリン)。

そのトランスペアレンシー・インターナショナルが毎年発表しているのがCorruption Perceptions Index、通称CPI。これは、各種の調査報告・統計資料等に基づいて、世界各国の「公的部門」(public sector)の腐敗度合いを点数化したランキングで、大手企業等によるリスクマネジメントの基礎資料として採用される事が多いデータです。

2016年版CPI(対象国:176カ国)で1位になったのは、デンマークとニュージーランド。最下位はソマリアでした(10年連続)。アジア太平洋地域に絞ってみますと、ランキングは次の通りです。

CPI算定の基礎データとなるのは世界銀行等による過去2年間の調査結果なので、個別的事案とCPI算定との間にはライムラグがあります。したがって、順位(点数)の変動と個別案件の因果関係を推定することは難しいのですが、概ね次のようなことがいえるかもしれません。

まず、日本が18位から20位に後退したのは、国交省や厚労省といった中央省庁レベルでの贈収賄事件摘発があった他、中央・地方レベルでの政治家に関わる利益供与案件が摘発されたことが影響しているものと思われます(ただし、日本全体の中長期的トレンドを見ると贈収賄の立件数は減少傾向にあることは事実です。例えば過去20年でいうと「贈賄罪の送検人員」は平成10年(1998年)の273人をピークに、平成27年(2015年)は42人まで激減しています)。いずれにせよ短期的には、日本の「腐敗度」は上がったと評価されている訳です。

他方で、例えばミャンマーは昨年の147位(22点)から136位(28点)に上昇していますが、これはアウン・サン・スー・チー(Aung San Suu Kyi)外相兼大統領府相兼国家顧問が積極的に腐敗防止に取り組んでいることが評価されたのでしょう。

このように、デンマークをはじめとするトップ10とソマリアや北朝鮮が常連のワースト10の顔ぶれはあまり大きくは変動しないのですが、その間の「中間層」は細かく順位が変わっていることが分かります。

ところで上位層の特徴の一つが「公益通報保護」制度の充実です。トランスペアレンシー・インターナショナル日本支部(TI-J)の若林亜紀理事長が指摘しているように、「1位のニュージーランド、10位のイギリス、13位のオーストラリアなど英連邦の国々は公益通報保護などの腐敗防止法が整っており順位が高い」のです。日本でも、公益通報者保護制度の民間事業者ガイドライン(消費者庁)が改訂され、法改正の検討が進んでいますが、公益通報保護を「腐敗防止のグローバルな潮流」の中に位置付けて議論を深めることが必要でしょう。

http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/198188

また、武力紛争との関連を視野に入れることも重要だと思われます。若林理事長によると「北朝鮮、アンゴラ、スーダン、南スーダン、ソマリア、アフガニスタンなど腐敗認識指数の低い国ほど武力紛争が絶えないという相関」があるとのこと。この指摘は、極めて重要です。なぜなら地政学的リスク、カントリーリスクの分析は腐敗防止対策に欠かせないからです。

http://www.ti-j.org/CPI2016pressrelease.pdf

いずれにせよ、綱紀粛正の嵐が吹き荒れた中国(40点で79位)よりも現時点でランキングが低い国家(インドネシア、フィリピン、タイ、ベトナム、ミャンマー、カンボジア等)でのビジネスについては、腐敗関係のリスクに特段の注意を払うことが必要不可欠だと考えられます。

Tweet about this on TwitterShare on FacebookShare on Google+Share on LinkedInEmail this to someonePrint this page

FCPA摘発と共和党/民主党

FCPAの摘発動向についてですが、「民主党政権は積極的だったが、共和党政権は消極的になるのでは!?」という意見も頂きましたので、追加でコメントします。

下のグラフを見てもらうと一目瞭然ですが、政権が民主党(青)か共和党(赤)かという問題とFCPAの摘発動向は、直接的な関係はありません(なお、グラフの件数はDOJの執行分のみで、会計条項違反のみの案件が含まれるSEC執行分は含んでおりません)。

アメリカの司法省(DOJ)や証券取引委員会(SEC)は、アメリカ国内で「会合」を開いたり、米国銀行の口座を経由して「送金」したり、アメリカ人やアメリカ企業(ニューヨーク証券取引所等で上場している日本企業含む)と「共謀」をしたりしているといった事由をとらえてアメリカ連邦法の管轄権を主張し、FCPAの「域外適用」を押し進めてきましたが、摘発が激化したのは2007年頃からです。

今に至るその流れの先陣を切ったのは、ブッシュ(息子)政権(共和党)で司法長官に任命されたマイケル・ミュケイジー氏でした。続くオバマ政権(民主党)で任命されたエリック・ホルダー氏(史上初の黒人司法長官)もこの路線を受け継ぎ、2012年のガイドライン作成・公表の前後にいったん摘発が沈静化した時期を例外として、FCPAの域外適用による摘発件数は高止まりしたままです。共和党から民主党への政権移行の影響は伺えません。ここ1〜2年は、リンチ司法長官(黒人女性として初めて司法長官に任命)がFCAやRICOを使った「民間同士の利益供与」案件の摘発を積極的に進めたので、FCPAそのものを適用する案件の件数は若干減っていますが、ビジネス贈収賄の摘発状況は消極化している訳ではありません。

逆に、ミュケイジー以前の時代は、FCPAの摘発件数は低いままに推移していました。特にレーガン政権(共和党)は、反共の旗を掲げていればある程度の腐敗は黙認するという政策で、いわゆる開発独裁政権(developmental dictatorship)のやりたい放題を見過ごしていたとも言えますので(ただし中南米のドラッグ関係は別)、外国公務員(外国政府高官)に対する賄賂は黙認される傾向があったと言えます。

いずれにせよ、FCPAの摘発動向と、政権が民主党か共和党かは、直接の関係はないということが分かります。トランプが大統領に就任した今後、FCPAの摘発がどうなるかは、トランプ大統領自身の考えと、トランプ政権としての通商政策の具体策、そして(摘発鈍化を促す米系企業による)ロビー活動の成否による、というのが本当のところでしょう。

ちなみに、2007年頃に始まり現在まで続くこの潮流がなぜ始まったのかは、別の大きな問題です。その「因果関係」を明確に摘示することは難しいのですが、一言で言うと、2001年の「9.11テロ」後、主にFATF等の金融分野で構築されていったテロ資金対策の政策が背景にあること、そして海外贈賄に関する証拠収集(電子メール・SNS、送金・入出国に関する電子記録等)が以前と比較して相当に容易化し、かつ国際捜査共助が進展してきたことが指摘できると思います。

その意味では、トランプ政権でFCPA摘発が一時的に鈍化する可能性はあるとしても、アメリカを震源地としてここ10年ほど世界のグローバル企業を震撼させてきた贈収賄の摘発動向(国際潮流)は長期的には変わらないと言えるかもしれません。

短期的に怖いのは、中国企業と並んで、日本企業が「狙い撃ち」されることです。いち早く備えを強化している企業もありますが、ぼんやりしている所も多いのが実情です。贈収賄にかかわるリスクマネジメントの再点検は喫緊の課題でしょう。

Tweet about this on TwitterShare on FacebookShare on Google+Share on LinkedInEmail this to someonePrint this page

トランプ政権とFCPA

トランプ政権の誕生によってFCPAの摘発動向はどう変化するでしょうか。11月の米国大統領選挙以来この関係の質問が相次いでいましたので、現時点での考えをまとめて、「別冊宝島」に寄稿しました。先日発売された『別冊宝島2538 政府高官とFBIが明かす トランプの野望』(宝島社)です。ジョセフ・ナイ、フランシス・フクヤマ、エドワード・スノーデン、川村晃司氏、宮家邦彦氏、大野和基氏といった豪華な顔ぶれによる記事がたいへん面白いので、是非お読みください。

トランプ政権とFCPAを考える上でのポイントは次の通りです。

  1. 新しい司法長官に指名されているのは、アラバマ州選出のジェフ・セッションズ上院議員。セッションズ氏は検事出身で、企業犯罪の摘発自体は推進していくと思われるが、司法長官に抜擢された経緯からするとFCPA摘発積極策を取らない可能性がある。 もともとセッションズ氏は、過去にKKKを肯定的に語り、人種差別主義者として批判を浴びた人物。強硬な不法移民排斥論者で大麻解禁反対論者、つまり共和党最右派の保守派。そのセッションズ氏が司法長官に選ばれたのは、大統領選でいち早くトランプ支持を表明し、選挙戦で外交政策の立案を支えた論功行賞。したがって、セッションズ氏が司法長官になった場合、まず考えられるのが、上司であるトランプ大統領の意向が最大限に反映されるという可能性。
  2. トランプ自身はFCPAの改正派。2012年5月15日、CNBCのSQUAWK NEWS LINEでトランプは、世界最大の小売業者ウォルマート社のメキシコでのFCPA違反事件について、「メキシコや中国で雇用を産み出している企業を摘発するなんて、この国は狂っている。FCPAはhorrible。改正されるべきだ。FCPAのおかげでアメリカのビジネスは大きな損失(huge disadvantage)を被っている」と発言。これはまさにブレジンスキー(カーター政権時代)を思わせる発言。
  3. 国務長官に親ロシア派のティラーソン氏が就任し、ロシアとの融和策が取られる場合、ハードルは下がる=消極化する可能性(プーチン大統領もFCPAの域外適用に批判的だから)
  4. 仮にルドルフ・ジュリアーニ元NY市長が司法長官に選ばれていれば、話は別だった。ジュリアーニ氏はFCPA摘発を推進したミュケイジー元司法長官の同志ともいうべき存在。企業犯罪・不正行為に厳しい姿勢が取られFCPA積極摘発路線が維持される可能性が高かった。
  5. なお、司法省の執行自体が急に変化する訳ではない(司法省の捜査実務を担う幹部が皆、政治任用で交替する訳ではないから)。
  6. 実務的には、2015年9月の司法省「イェーツ・メモ」を受けた、新しい捜査パイロットプログラムが稼働したばかりで、捜査実務の方針は直ちには変わらないだろう。
  7. 従来通りFCPA 摘発を継続する可能性も残っている。例えば、中国対抗策として中国企業による贈賄を摘発する等、実利的な判断からFCPAの戦略的活用が図られる可能性。米国企業保護の見地から日本企業が狙い撃ちされる危険性もある。この場合、FCPA適用の「二重基準」(ダブルスタンダード)が問題視される局面も考えられる。

こんなところです。

いずれにしても、FCPAの摘発動向を考える上で、いっそう「地政学的な視点」を取り入れることが重要になっているということだと思います。

ということで、春から5年目に突入するBERC(=日本の主要企業が参加するコンプライアンスの専門機関)の「外国公務員贈賄罪研究会」は、地政学的リスクの分析に重点を置く方向で運営していきたいと思っています。なお、同研究会に参加したい企業は、BERCに入会することが必要です。詳しくはBERCにお問い合わせください。

Tweet about this on TwitterShare on FacebookShare on Google+Share on LinkedInEmail this to someonePrint this page

中国が「国家監察委員会」を新設へ

2017/1/3の朝日新聞の記事(西村大輔記者)によると、中国が公務員の腐敗行為を取り締まる国家機関「国家監察委員会」を2018年3月に新設する方針とのことです。

http://digital.asahi.com/articles/DA3S12730505.html

習近平政権はこれまでに大々的に反腐敗政策を執行し、政法委員会を牛耳って来た周永康をはじめとする政府・軍高官を摘発してきましたが、その集大成として、共産党の中央規律検査委員会や中央巡視組とは別に、常設機関として本格的な腐敗摘発組織を新設するということのようです。

西村記者によると、国家監察委は「関係部門を統合し、政府と同格の地位を与えて権限を強化。中央規律検査委は存続するが、機能や要員は国家監察委と統合する可能性が高い」とのこと。

「政府と同格の地位」というと、日本の三権分立の構図に慣れた頭には驚きかもしれませんが、中国での政府は党の下にある機関に過ぎません。

今回の国家監察委員会の常設を、「いよいよ腐敗取締りが本格化する」と捉えるか、「これでルーティン化=日常化するので、一段落だ」と捉えるか、人によって見方は分かれるかもしれませんが、在中国日本企業にとっての影響は大でしょう。

Tweet about this on TwitterShare on FacebookShare on Google+Share on LinkedInEmail this to someonePrint this page

パナソニック、調達部門における接待を大量処分

パナソニックは2016/11/1、テレビ部品の購買/調達部門等の社員らが納入元メーカーから延べ2000回以上もの接待を受けていたとして、厳しい社内処分を下したと報じられています。

産経新聞によると、処分の対象となったのは全部で「90人余り」。中心となったのは、テレビ部品の調達部署に属する70人強です。接待を受けることを禁止する社内規定に違反したとして、「約5人が降格、30人前後が出勤停止、50人前後がけん責処分」を受けたとのことです。

今回の接待が「渉外性」のある(国境を越える)便宜供与だったかは不明ですが、国内案件だとしても(ちなみに、UKBAやベトナム改正刑法(2017年施行予定)と異なり、我が国では民間同士の利益の供与はそれ自体では違法ではありません)、調達部門は特に、契約にあたって便宜供与を受ける潜在的可能性が高く、情実による判断が会社に損害を与える可能性がある部署ですので、一罰百戒的に厳しい処分を下したものと思われます。

民民贈収賄防止に取り組んでいる日本企業は多くなりましたが、実際の処分に踏み切り、かつ自主的に公表した例はあまり聞いたことがありません。パナソニックのインテグリティを示す先例として、今後評価されることでしょう。

http://www.sankei.com/west/news/161105/wst1611050030-n1.html

Tweet about this on TwitterShare on FacebookShare on Google+Share on LinkedInEmail this to someonePrint this page

東京五輪招致問題についてのJOC調査報告書

2016/8/31、東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会に関わる「利益供与疑惑」についての調査報告書が公表されました。結論から言うと、招致活動に関わるコンサルディングの対価に賄賂性は認められず、当事者に贈賄の認識もない、したがって違法性はないというものです。

東京五輪の招致委員会ですが、2011/9/15に任意団体として設立された後、2012/4/2には特定非営利活動法人化、この招致委員会が、東京五輪招致のロビイング活動を任せたのがシンガポールにある「ブラックタイディング」(BT)です。

調査報告書によれば、一連の経緯は概ね次の通りです。

  • 2013/5下旬に、BTからパンフレットが送付されてきたことを端緒として、BTのタン氏が評価され、招致委員会は、2013/7/1に第1契約を95万ドルと締結
  • 2013/7/16,25に、IAAFに強いコネを持つパパ・ディアク氏(セネガル人。IAAFのドンの息子だけど名前はパパ)が高級時計を購入❶
  • 2013/7/29に、招致委員会は95万ドルを送金(みずほ銀行→Standard Chartered Bank)❷
  • 2013/9/7のIOC総会で「東京開催」が決定
  • 2013/10/4に、招致成功を受けて、第2契約(137.5万ドル)を締結
  • 2013/10/24 その137.5万ドルを送金(同ルート)❸
  • 2014/3/31、招致委員会は任務終了にともなって解散

というものです。

「パパによる時計購入❶が送金❷+❸よりも前だから」とか、当事者に贈賄の「故意」はなかったとか、やや「力技」ともいえるロジックで結論を導いている今回の報告書ですが、注目すべきはなんといってもBT。実は、国際的なスキャンダルとなった「ロシア・ドーピング問題」の登場人物だったのです。

2014春のユリア・ステパノワ夫妻による内部告発をきっかけに、ドイツ公共放送ARD が衝撃のドキュメンタリー番組を放送したのが2014/12/3。実は、その中で、ロシア陸上界のスター選手の一人だったリリア・ショブホワ選手が、「45万ユーロ(約5950万円)払ったが資格停止になっちゃったので、30万ユーロをバックしてもらった」と告発した際の送金口座がBTのものでした。ジャーナリストが電波少年よろしくシンガポールのBTを突撃取材すると、そこは「雑然とした雑居ビル」の一室だったというラストシーンで、ARDのドキュメンタリーは終わります。つまり、BTは、2014年末段階で世界的に有名になっていた存在でした(危機管理的には、この事実はとても重要)。

(ちなみに、このARDのドキュメンタリーは夜中にBTを訪問撮影したもので「いかにも怪しい」という印象を強烈に演出しています。しかし、BTの所在地である建物は実際には単なる集合住宅で、「オフィルビルとは思えない雑然さ」は当たり前ということがその後に判明しています。BTは「法人」ではなく「個人事業主」に過ぎないという指摘があります)

このロシア・ドーピング問題の告発を受けて、WADA(世界アンチドーピング機構)が調査報告書の第一弾を公表したのが2015/11/9、より詳細な内容に踏み込んだ第2弾は2016/1/14に公表されました。このWADA報告書第2弾の脚注に「日本人は400〜500万ドルの協賛金を払った。2020大会は東京が獲得した」という記述が載っていたことが、今回の騒動の出発点です。

2016年5月には通常国会でJOC会長が厳しく追求され、一時はどうなることかと思われた今回の「疑惑」でしたが、この報告書の公表で事態はとりあえず沈静化しそうです。とはいえ、今回の騒動がスポーツ・インテグリティや危機管理の点でいろいろな課題を残したのも事実。調査報告書は公開して多くの人に読まれるべきでしょう。

Tweet about this on TwitterShare on FacebookShare on Google+Share on LinkedInEmail this to someonePrint this page

ドーピング、五輪そして賄賂


講談社の「現代ビジネス」に、『「オペレーション・アウゲイアス」リオ五輪の水面下で進められるドーピング壊滅作戦の実態 「五輪と薬物」通史』という拙稿が掲載されました。

これは、ロシア陸上界を中心とするドーピング疑惑に対する国際捜査を材料にして、スポーツ・インテグリティについて検討した原稿の一部です。あまりにも字数が多くなってしまったので、今回はその一部ということで。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49433

Tweet about this on TwitterShare on FacebookShare on Google+Share on LinkedInEmail this to someonePrint this page

朝日新聞対UE社事件、控訴審で判決

本日(2016/6/1)、東京高裁の控訴審で、朝日新聞社対ユニバーサルエンターテインメント社(UE社)事件の判決が出ました。

これは、フィリピンのカジノビジネスに関わる外国公務員贈賄疑惑を報じた記事に関して、UE社が「名誉毀損」で朝日新聞社を訴えていた損害賠償請求事件の控訴審判決です。東京高裁(水野邦夫裁判長)は「朝日新聞は33万円を支払え。1本の記事を削除せよ」という判決を下しました。

一審の東京地裁判決(2015/12/21)は「330万円の損害賠償+4本の記事削除」だったので、「賠償額は90%減額、記事削除も75%低減」といえなくもないのですが、UE社側の請求が一部認容されているという意味では、朝日新聞社側の「勝訴」とは言えず、引き続きの「敗訴」と言うべきでしょう。特に「記事削除」を覆せなかったのは「言論機関」として痛いところかもしれません。

フリーリポートの信頼性を含めて、FCPAに関わる事実を丹念に拾い上げ名誉毀損の主張を緻密に構成したUE社側に対して、北方ジャーナル事件等を引用して悠然と「反論」した形の朝日新聞社側。昨年末の一審判決は、そうした朝日新聞社側の主張に、厳しい判断を突きつけました。今回、一審判決に続いて控訴審でも朝日新聞が「敗訴」してしまったことに、波紋が広がりそうです。

「なぜこうなってしまったのか」については、次回BERC研究会で検証したいところです。

なお、一審判決については、講談社現代ビジネスの記事もご覧下さい。

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47190

 

 

 

Tweet about this on TwitterShare on FacebookShare on Google+Share on LinkedInEmail this to someonePrint this page

パナマ文書、遂に「データ」を公開

本日(2016/5/10)、ICIJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)がパナマ文書の「データ」を公表しました。

https://offshoreleaks.icij.org

パナマ文書とは、パナマにある法律事務所「モサック・フォンセカ」から「流出した」とされている文書(2.6TB相当とのこと)で、タックスヘイブン(租税回避地)に設立された会社等のデータが「内部告発」されたとされているものです。その「データ」が一般公開され、ICIJのウェブサイトから検索出来るようになりました。

また、CSVデータもダウンロードできるようになっています。

https://offshoreleaks.icij.org/pages/database#_ga=1.94733332.922987544.1459997510

このCSVファイル(offshore_leaks_csvs)は、

  1. Addresses.csv
  2. all_edges.csv
  3. Entities.csv
  4. Intermediaries.csv
  5. Officers.csv

という5種類のファイルで提供されており、例えば法人の名称別に整理されたCSVファイル「Entities.csv」を見ると、「31万8823件」のデータが掲載されていることが分かります。

これだけの情報を「野に放った」形の今回の公表、前代未聞の試みと言えそうです。

panama

Tweet about this on TwitterShare on FacebookShare on Google+Share on LinkedInEmail this to someonePrint this page