テロ等準備罪の議論が国会で行われています。組織犯罪対策において、いわゆるconspiracyとしての「共謀罪」の適用と並んで多いのが、「司法取引」と「おとり捜査」。後者のうち、犯意誘発型は違法とされており、日本ではまだ解禁されていませんが、前者はすでに立法の手当て済みです(施行は来年)。今国会でテロ等準備罪が成立した場合、いずれ焦点となるのは「おとり捜査の全面解禁の可否」となるでしょう。
麻薬取引等の組織犯罪の場合、組織に潜入しつつ協力者を作るというタイプの捜査では、司法取引とおとり捜査はある意味で不可欠の手法です。潜入捜査官の立場は弱く、司法取引・証人保護等の特権を与えないと最終的な協力者を得ることは難しいからです。企業犯罪である営業秘密の窃取の場合もほぼ同様です。
これに対して、外国公務員贈賄罪の場合、一方当事者である収賄側は、現地において実際に公権力を行使する、正統に選出・任命された公務員であることが前提ですので、そこへの潜入というのは想定し難く、また、仮におとり捜査が可能であったとしても、捜査関係者が外国政府の公職を詐称することになる不具合があります。ただし、その場合でも、アルストム事件以降に顕著になってきた贈収賄に関する国際捜査協力体制の下では、賄賂工作が行われる当該外国の捜査機関が協力しておとり捜査が遂行される可能性がないとは言えません。
いずれにせよ、外国公務員贈賄罪の分野で「おとり捜査」が本格化するようになったら、グローバル企業のコンプライアンス確保はまだ一段高い水準を要求されるようになるでしょう。