三菱日立パワーシステムズ外国公務員贈賄罪事件で3人を起訴、法人は不起訴

本日(2018/7/20)、東京地検特捜部が三菱日立パワーシステムズ(MHPS)の役員・社員ら3人を在宅起訴、法人は不起訴(起訴猶予)になりました。我が国で初めて「司法取引」(合意制度)が適用された事件が、今回のタイ南部カノム発電所事業にかかわる外国公務員贈賄罪事件になった訳です。

起訴された3人は、

  1. 元取締役常務執行役員兼エンジニアリング本部長 U氏(64)
  2. 元執行役員兼調達総括部長 N氏(62)
  3. 元調達総括部ロジスティクス部長 T氏(56)

つまり、本社サイドのプロジェクト責任者・調達責任者のラインが立件され、タイで贈賄工作を実施した担当社員の起訴は見送られた模様です。

これまでの報道では、MHPSが払った賄賂は「約6000万円」ということでしたが、起訴ではそのうちタイ運輸省港湾局支局長に現地の輸送業者を通じて支払われたことが裏付けられた「約3900万円」分が賄賂額として認定されたということです。

起訴を受けて、MHPSがプレスリリースを発表しています。

https://www.mhps.com/jp/news/20180720.html

 

不正競争防止法違反による当社元役員および元社員の起訴について

2018年7月20日発行 第221号
過日より一部報道にあります当社(三菱日立パワーシステムズ(株):MHPS)関係者によるタイ公務員に対する贈賄疑惑に関し、本日、当社の元役員2名(元取締役常務執行役員エンジニアリング本部長、元執行役員調達総括部長)および元ロジスティクス部長1名が、不正競争防止法違反(外国公務員への贈賄)容疑で起訴されたとの情報に接しましたので、下記の通りお知らせいたします。当社では以前から法令遵守のための諸施策を講じてまいりましたが、今回、このような事態に至りましたことは誠に遺憾であり、お客様をはじめ、皆さまに多大なご迷惑とご心配をお掛けしておりますことについて深くお詫び申し上げます。当社では、今回の事態を厳粛に受け止め、今後、役員・社員一同、さらなるコンプライアンスの徹底をはかるとともに、再発防止と信頼回復に努めてまいります。

1.事案の概要
タイ王国ナコンシタマラート県カノム郡において当社が請け負っていた火力発電所の建設工事をめぐり、2015年2月、当社が建設資材の海上輸送を依頼していた物流業者の下請け輸送業者が、発電所の建設現場近くに設置された桟橋に資材を荷揚げしようとしたところ、地元港湾当局の公務員と思われる人物を含む地元関係者らにより桟橋を封鎖された上、2,000万バーツの金銭を支払うよう要求された旨、当社の資材運輸部門の担当者に連絡がありました。
当社が依頼していた物流業者が、桟橋使用許認可取得手続きを適切に実施していなかったという予期せぬ事象により封鎖されたものであり、これにより資材の荷揚げが遅れた場合、発電所の建設遅延が発生し、当社が多額の遅延損害金等を支払う義務が生じることが見込まれたことから、これを回避する目的で、当社関係者は、要求に応じるべく2,000万バーツを輸送業者に交付し、桟橋の封鎖を解除させました。
なお、実際に、輸送業者により2,000万バーツが公務員等に交付されたかまでは当社では確認していません。
これらの一連の経緯に、当時の当社関係者が関与し、同国の建設業者へ架空工事を追加発注することにより、2,000万バーツが捻出されました。
2.事案発覚後の当社の対応
2015年3月、当社は内部通報によりタイでの公務員への不正な金銭の支払いの疑いについて把握しました。当社は直ちに社内調査に着手した上で、同月、さらに詳細な調査を実施するため、外部の法律事務所に依頼し、弁護士らによる関係者へのヒヤリングや関係資料の収集等を行いました。その結果、法令違反が疑われたことから、同年6月、東京地方検察庁に報告書を提出しました。
3.協議・合意制度への対応
当社が違反事実を報告したのは、協議・合意制度のない2015年でありますが、当社は、その後約3年間にわたり、東京地方検察庁による本件の捜査に全面的に協力してきました。このような姿勢を検察当局からは評価いただき、本年6月、協議・合意制度の本件への適用についてご提案がありました。
当社は、協議・合意制度を適用しなかったとしても、今回起訴された3名の処分は変わらないとの理解の下、本件の全容解明への協力が必要と考え、協議・合意制度に基づき検察官と合意しました。
当社としては、今回、協議・合意制度に応じたことについては、不正行為に関与していない多くの社員を含め、当社のステークホルダーの利益を守るために必要かつ合理的な判断であったと考えています。
4.再発防止策
上記2.項に記載の社内調査の結果、当社におけるコンプライアンスのさらなる徹底およびコンプライアンスチェック機能のさらなる強化により再発防止を図る必要があると判断したことから、現在、以下の施策を推進しています。
贈賄防止に関し経営トップによるメッセージ発信
投書窓口の通報手段の多様化(ウェブ窓口、フリーダイヤル窓口の追加)
受注前・受注後の贈賄リスクチェックの徹底
海外建設現地における出金に関する監査強化
管理職全員からコンプライアンス誓約書の再取得
外部講師等による贈賄防止教育の実施
5.処分
不正な金銭の支払いに関与した当時の関係者について、2016年2月に社内処分を実施したほか、経営の責任を明確化するため、2015年2月当時の社長、営業担当役員、コンプライアンス担当役員は、以下の通り報酬を返上しています。
社長 : 報酬の30%を3か月返上
副社長(営業担当役員): 報酬の20%を3か月返上
営業戦略本部長(営業担当役員): 報酬の20%を3か月返上
経営総括部長(コンプライアンス担当役員): 報酬の10%を3か月返上

これまで報道されていなかった「桟橋の封鎖」の原因が「当社が依頼していた物流業者が、桟橋使用許認可取得手続きを適切に実施していなかった」こと、そして、それが会社として「予期せぬ事象」であったこと、「実際に、輸送業者により2,000万バーツが公務員等に交付されたかまでは当社では確認」していなかったという、第三者を通じた外国公務員贈賄罪(典型ケース)での認識可能性の問題、端緒が「内部通報」であったこと等、正直に会社側事情が記載されています。また、再発防止策と並んで、社長報酬30%減額3ヶ月等の社内処分の内容も説明しており、用意周到であるが、誠実な印象を与えています。

こうした外国公務員贈賄罪事件におけるプレスリリースとしては、適切なものであると評価できるのではないでしょうか。

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