今回のサウジアラビアの粛清では、「腐敗摘発」という大義名分が使われている点が注目されます。
権力闘争の手段として「腐敗の摘発」を利用するというのは、現代では、中国やベトナムといった社会主義国のお家芸となっており、例えば中国では習近平総書記(国家主席)が、盟友である王岐山が率いる「共産党中央規律検査委員会」を駆使して、周永康、薄煕来、令計画、郭伯雄、徐才厚らの大物政敵を次々と収賄罪等の嫌疑をかけて追い落とし、権力の基盤固めに成功しています。
また、ベトナムでも同様に、最高権力者グエン・フー・チョン書記長が、失脚したズン前首相に連なる経済人脈を汚職の嫌疑で摘発しています(詳細は、エコノミスト2017年10月17日号をお読みください)。
それは、腐敗の摘発が政治的な意味で、誰しもが正面からは反対できない現代の「最強のカード」だからです。
これまでに習近平総書記とチョン書記長、サルマン国王と習近平総書記との間で、首脳会談が実施されておりますが、少なくとも前者では腐敗摘発というカードについて話し合いがなされたと報道されています。
このカードが、サウジアラビアで使われた、しかも「ゼロ・トレランス」で。これこそが、今回の粛清が世界に衝撃を与えた理由の一つだと考えられます。
ゼロ・トレランス(zero tolerance)とは「聖域なき取り締まり」を行うということ。実は、ムハンマド副皇太子が提唱したVision2030 には腐敗防止が組み込まれていました。
Embracing transparency
We shall have zero tolerance for all levels of corruption, whether administrative or financial. We will adopt leading international standards and administrative practices, helping us reach the highest levels of transparency and governance in all sectors. We will set and uphold high standards of accountability. Our goals, plans and performance indicators will be published so that progress and delivery can be publicly monitored. Transparency will be boosted and delays reduced by expanding online services and improving their governance standards, with the aim of becoming a global leader in e-government.
http://vision2030.gov.sa/en/node/106
「Embracing transparency」つまり透明性の確保という段落で、「管理部門から財政部門まで、あらゆるレベルの腐敗に対してゼロ・トレランスで望まなくてはならない」と明言されていたのです。
反撃を許すことなく有力者を一斉に拘束し、高級ホテル「リッツ・カールトン」に幽閉することに成功した今回の粛清劇は、その手際の良さからみても、周到に用意されていたものだったに違いありません。そして、Vision2030に忍び込んでいた腐敗撲滅のゼロ・トレランス宣言は、今回の粛清の布石だった可能があると考えられます。