7月23日、ベルリン中心部で一人のベトナム人男性が、武装した集団に拉致されました。
拉致された男の名前はチン・スアン・タイン(Trinh Xuan Thanh)氏。国営ベトナム石油ガスグループ(ペトロベトナム)傘下の建設会社「ペトロベトナム建設」(PetroVietnam Construction Joint Stock Corporation:PVC)の会長として、ハウザン省人民委員会副委員長や国会議員にも就任するなど権勢を振るっていた人物です。
http://www.afpbb.com/articles/-/3138009
タイン氏を拉致したのはベトナム情報部でした。実はタイン氏は、汚職の嫌疑でインタポールによる国際指名手配中であり、ドイツ政府に亡命を申請していた人物だったのです。
自国の領域内で、亡命申請中だった人物を拉致されたドイツ政府は激怒、ベトナム大使館関係者をペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物:Persona non grata)に指名し国外退去させるという報復措置を講じました。
拉致されたタイン氏は、10日後、ベトナムに姿を現しました。国営ベトナムテレビに出演し、虚ろな目で「自ら出頭した」と証言したのです(ビデオ出演)。拉致事件の関係者がチェコ当局によって逮捕され、既にドイツに引き渡されているとも伝えられています。チェコ経由でベトナムに強制連行された可能性が高いと思われます。
http://vtv.vn/trong-nuoc/ong-trinh-xuan-thanh-toi-da-ra-dau-thu-20170803190749407.htm
ちなみにドイツですが、ベルリンの壁が崩壊する前の東ドイツ時代、同じ社会主義国家ということでベトナムから留学生だけでなく、多くの労働者が東ドイツに出稼ぎに行っていた関係で、今でも一定のベトナムコミュニテイが存在しているとのことです。タイン氏が第二の人生を送ろうとしたドイツから拉致された際の絶望は、察するに余りあります。
なぜ、タイン氏はベトナム政府によって拉致されたのでしょうか。実はその背景には、ベトナムで今吹き荒れようとしている風があります。日本企業も巻き込まれるかもしれない、その風はいったいどういうものなのか。その詳細は、また次の機会に。