東京五輪招致問題についてのJOC調査報告書

2016/8/31、東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会に関わる「利益供与疑惑」についての調査報告書が公表されました。結論から言うと、招致活動に関わるコンサルディングの対価に賄賂性は認められず、当事者に贈賄の認識もない、したがって違法性はないというものです。

東京五輪の招致委員会ですが、2011/9/15に任意団体として設立された後、2012/4/2には特定非営利活動法人化、この招致委員会が、東京五輪招致のロビイング活動を任せたのがシンガポールにある「ブラックタイディング」(BT)です。

調査報告書によれば、一連の経緯は概ね次の通りです。

  • 2013/5下旬に、BTからパンフレットが送付されてきたことを端緒として、BTのタン氏が評価され、招致委員会は、2013/7/1に第1契約を95万ドルと締結
  • 2013/7/16,25に、IAAFに強いコネを持つパパ・ディアク氏(セネガル人。IAAFのドンの息子だけど名前はパパ)が高級時計を購入❶
  • 2013/7/29に、招致委員会は95万ドルを送金(みずほ銀行→Standard Chartered Bank)❷
  • 2013/9/7のIOC総会で「東京開催」が決定
  • 2013/10/4に、招致成功を受けて、第2契約(137.5万ドル)を締結
  • 2013/10/24 その137.5万ドルを送金(同ルート)❸
  • 2014/3/31、招致委員会は任務終了にともなって解散

というものです。

「パパによる時計購入❶が送金❷+❸よりも前だから」とか、当事者に贈賄の「故意」はなかったとか、やや「力技」ともいえるロジックで結論を導いている今回の報告書ですが、注目すべきはなんといってもBT。実は、国際的なスキャンダルとなった「ロシア・ドーピング問題」の登場人物だったのです。

2014春のユリア・ステパノワ夫妻による内部告発をきっかけに、ドイツ公共放送ARD が衝撃のドキュメンタリー番組を放送したのが2014/12/3。実は、その中で、ロシア陸上界のスター選手の一人だったリリア・ショブホワ選手が、「45万ユーロ(約5950万円)払ったが資格停止になっちゃったので、30万ユーロをバックしてもらった」と告発した際の送金口座がBTのものでした。ジャーナリストが電波少年よろしくシンガポールのBTを突撃取材すると、そこは「雑然とした雑居ビル」の一室だったというラストシーンで、ARDのドキュメンタリーは終わります。つまり、BTは、2014年末段階で世界的に有名になっていた存在でした(危機管理的には、この事実はとても重要)。

(ちなみに、このARDのドキュメンタリーは夜中にBTを訪問撮影したもので「いかにも怪しい」という印象を強烈に演出しています。しかし、BTの所在地である建物は実際には単なる集合住宅で、「オフィルビルとは思えない雑然さ」は当たり前ということがその後に判明しています。BTは「法人」ではなく「個人事業主」に過ぎないという指摘があります)

このロシア・ドーピング問題の告発を受けて、WADA(世界アンチドーピング機構)が調査報告書の第一弾を公表したのが2015/11/9、より詳細な内容に踏み込んだ第2弾は2016/1/14に公表されました。このWADA報告書第2弾の脚注に「日本人は400〜500万ドルの協賛金を払った。2020大会は東京が獲得した」という記述が載っていたことが、今回の騒動の出発点です。

2016年5月には通常国会でJOC会長が厳しく追求され、一時はどうなることかと思われた今回の「疑惑」でしたが、この報告書の公表で事態はとりあえず沈静化しそうです。とはいえ、今回の騒動がスポーツ・インテグリティや危機管理の点でいろいろな課題を残したのも事実。調査報告書は公開して多くの人に読まれるべきでしょう。

Tweet about this on TwitterShare on FacebookShare on Google+Share on LinkedInEmail this to someonePrint this page

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です