FIFA事件「犯罪王リコの泣く夜は恐ろしい」

2015年5月27日、FIFA(国際サッカー連盟)の汚職事件が摘発され、DOJ(米国司法省)によってFIFAや企業関係者計14人が起訴されるとともに、スイス警察によって会議に参集していた現役のFIFA副会長2人を含む7人が逮捕されました。DOJのトップに就任したばかりのロレッタ・リンチ司法長官、衝撃のデビューです。

キーワードとなるのはRICO法(Racketeer Influenced and Corrupt Organization Act)。いわゆるアメリカ版の組織犯罪処罰法です。1931年公開のマフィア映画「犯罪王リコ」にちなんで「リコ法」と呼ばれるこの法律。サッカーを司る国際組織FIFAに適用されたというのは、確かに衝撃的です。

日本のメディアの多くが「贈収賄」や「賄賂」という見出しで報じたこともあり、「えっFIFAの役員って(外国)公務員なの?」、「FCPAが適用されたの?」といった問い合わせが殺到しましたので、簡単に整理してみます。
DOJが今回公表しているWebb et al. Indictmentをみると、訴因が47個も列挙されています。

http://www.justice.gov/opa/file/450211/download

メインとなるのは、RICO法で規定されている「組織犯罪の共謀」(Racketeering Conspiracy:ラケッティア行為の共謀)です(Title 18, United States Code, Sections 1961(1) and 1961(5))。

この「ラケッティア行為」というのがややこしいのですが、マフィア等の組織・集団が恐喝等の違法行為(=ラケッティア行為)によって不正に利益を得ている場合、その一つ一つの行為をその都度摘発するのでは(いたちごっこで)組織犯罪を十分には処罰できないので、脅迫行為等が(反復)継続 (pattern of racketeering activity)していると認められる場合は、その組織(=エンタープライズ)の運営に関与すること自体を犯罪として処罰しようというもののようです(日本の組織犯罪処罰法の母体ともいえる法律です)。

したがって、このRICO法は二段構えの構造になっており、基本犯罪としてmurder, kidnapping, gambling, arson, robbery, bribery, extortion等の犯罪がまず列挙されており、つぎにそれらの犯罪が「10年間に2個生じた」場合に、pattern of racketeering activityが認められ(他にunlawful debtもありますが)、継続的ラケッティア行為を遂行した組織の運営に関わること自体が犯罪になるというものです。

今回のFIFA事件では、訴因として、Wire Fraud Conspiracy(電信詐欺。Title 18, United States Code, Section 1343)や、Money Laundering Conspiracy(マネーロンダリング。Title 18, United States Code, Sections 1956 and 1957) 、Unlawful Procurement of Naturalization(帰化申請手続における虚偽申告。Title 18, United States Code, Sections 1425)、obstruction of justice(捜査妨害、Title 18, United States Code, Section 1512)等が挙げられていますが、これらが基礎犯罪にあたるものと思われます。

そうした犯罪が(なかには20年以上も)継続して為されていたと言えるので、FIFAの役員やスポーツ関連企業、関係者が「エンタープライズ」(組織)とみなされて、その組織の運営行為に関わった人々にRICO法が適用された(適用できた)という構図です。

組織の運営行為の中には、不正旅行罪(interstate and foreign travel in-aid-of racketeering、Title 18, United States Code, Section 1952)と並んで、贈収賄罪(bribery, New York State Penal Law Sections 180.03 and 180.08)が登場します。このNew York州刑法の贈収賄罪、実は商業賄賂を罰しています。賄賂を贈る相手が公務員でなくてもよい訳です。

つまり、今回の事件は、FCPAの事件ではありません。

なお、Wire Fraudはワイヤーを利用した「詐欺」ですが、実質的には、賄賂・キックバックをもらうことで職務を汚したということで、日本でいえば背任に近いものと思われます。また実務的には、「所得の虚偽申告」(Aiding and Assisting in the Preparation of False and Fraudulent Tax Returns、Title 26, United States Code, Section 7206(2)等)という税法上の犯罪が訴因として挙げられている点も見逃せません。

過去の国際サッカー大会の関係者、スポンサード契約を締結した企業の担当者だけでなく、2020年の東京オリンピックに向けて各種の準備行為を営んでいる方にとっても、ただ事ではない今回のFIFA事件、引き続き注視していきたいと思います(次回のBERC外国公務員贈賄罪研究会で集中的に取り上げる予定です)。

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